大阪公立大学とパナソニック コネクトは11月28日、子どもたちの潜在的なSOSを早期発見し適切な支援につなげる「YOSS クラウドサービス」を2022年12月1日から全国の小中学校・高校などの教育現場に提供開始すると発表した。

スクリーニングシステム「YOSS(Yamano Osaka Screening System:ヨース )」は、子どもの隠れたSOSに気付き、潜在的に支援が必要な子どもや家庭への適切な支援をおこなうことを目的に2018年に大阪公立大学の山野則子教授らが開発した仕組み。

同日開かれた記者会見で山野氏は、「スクリーニングとは、全員の子どもたちを確認していくことで、リスクの可能性ある子どもを洗い出し適切な対応を簡単に行えるようにすること。子どもだけではなく、教師を救うことにもつながる」と説明した。

  • 大阪公立大学 スクールソーシャルワーク評価支援研究所 所長 現代システム科学研究科 山野則子氏

    大阪公立大学 スクールソーシャルワーク評価支援研究所 所長 現代システム科学研究科 山野則子氏

今回、両者が発表した「YOSS クラウドサービス」は、児童生徒一人ひとりの、欠席や遅刻・早退、服装・身だしなみ、家庭での様子などの項目をデータベース化するクラウドサービス。課題を抱える児童生徒を抽出し、自動判定された支援の方向性を提案する。客観的なデータに基づいて支援を決定し、早期発見・支援につなげるサービスだ。

  • YOSS クラウドサービスで見込まれる主な効果

    YOSS クラウドサービスで見込まれる主な効果

またクラウド型のサービスであるため、教員やスクールソーシャルワーカー(SSW)、スクールカウンセラー(SC)などとの情報共有がしやすい。客観的なデータに基づいてチームで議論することで、教員が一人で抱え込むことへの防止につながる。

  • YOSS クラウドサービスで見込まれる主な効果

    YOSS クラウドサービスで見込まれる主な効果

文部科学省の調べによると、2022年の不登校の児童生徒は約19万6000人と8年連続で増加しており、いじめによる事件、居所不明児童生徒、少年事件など、子どもを取り巻くさまざまな問題が深刻さを増している。

特にコロナ禍以降の不安定な社会情勢により、貧困・孤独・虐待など子どもの環境は、一層厳しいものとなってきており、「8割以上の子どもがストレスを抱えている」(山野氏)という。

一方、初等中等教育の現場で働く教員は多くの業務を抱え、子どもの日常生活の変化の伝達・共有・課題支援決定を行う仕組みが組織として十分に整っていない場合が多い。個々の教員に課題の抱え込みが生じやすく、相談機関との連携体制へと動いていくことにも課題があるという。「『家庭の問題だから』『児童相談所に伝えてもこれくらいでは動かない』といった苦しい思いをしながら教師はそこに蓋をしていく。簡単に決定できない現状がさまざまな事件につながっている」(山野氏)

  • YOSS クラウドサービス

    YOSS クラウドサービスを活用した全体像

山野氏らが開発したYOSSは、すでに33自治体211校に導入実績がある。具体的な効果として、不登校の児童生徒数が3分の1に減少、遅刻早退などが7割改善、諸費滞納が8割改善という自治体が生まれたという。組織として、支援内容の決定スピードが10倍向上し、教員の負担が軽減される傾向がみられているとのことだ。

  • YOSS クラウドサービス 画面イメージ

    YOSS クラウドサービス 画面イメージ

全国への提供を開始するYOSS クラウドサービスは、パナソニック コネクトのサービス開発のノウハウを活用し、これらYOSSの機能をクラウド上にシステム構築した。大阪公立大学はYOSSモジュールの研究を進め、パナソニック コネクトは販売、システムインテグレーション、サポート業務を担う。

「YOSSクラウドサービスの全国展開で、子どもたちを誰一人取り残さない持続可能な社会を実現していく」と、パナソニック コネクト 現場ソリューションカンパニー 西日本SE部部長の中村誠吾氏は語った。

  • パナソニック コネクト 現場ソリューションカンパニー 西日本SE部部長の中村誠吾氏

    パナソニック コネクト 現場ソリューションカンパニー 西日本SE部部長の中村誠吾氏