名古屋大学(名大)と旭化成は11月25日、より実用性のある直流電源による、UV-C帯域の274nmの深紫外半導体レーザーの室温連続発振に成功したと発表した。

同成果は、名大 未来材料・システム研究所の天野浩教授、旭化成の共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学協会が刊行する応用物理学全般を扱う学術誌「Applied Physics Letters」に受理され、そちらでの公開に先駆け、名大 学術機関リポジトリで2件(論文1論文2)公開された。

3種類あるうち、波長が280nm未満の最も短い紫外線であるUV-Cを用いたUV-Cレーザー(LD)は、ヘルスケア、計測・解析、センシング、レーザー加工の分野での活用が期待されている。研究チームは長らくその開発を続けており、2019年には、高品質窒化アルミニウム(AlN)単結晶基板と分極ドーピング法を採用し、室温パルス電流駆動によるUV-C帯域のUV-C LDの発振に成功したことを報告している。

  • 半導体レーザーの歴史

    半導体レーザーの歴史と、今回の研究の概要 (出所:名大プレスリリースPDF)

一方、半導体レーザーを実用化するためには、電池での駆動も可能な室温連続発振が必須とされる。そのため、研究チームではこれまで、連続発振の実現のために動作電流、および動作電圧の低減に注力し、研究を進めてきたという。そして今回の研究では、従来のUV-C LDのメサストライプの端に発生する結晶の乱れ、すなわち結晶欠陥に着目することにしたとする。

メサストライプ端の結晶欠陥は、共振器内部に延伸することでしきい値電流密度を悪化させるだけでなく、電極設計に制限を与えることで駆動電圧を悪化させてしまう。種々の試作、解析およびモデリングを用いた多角的なアプローチによる検討の結果、結晶欠陥の発生の原因がメサストライプにかかる応力の局所集中であることが確認された。そこで、応力を制御するためメサストライプの構造を、従来の垂直型から傾斜型へと刷新したところ、結晶欠陥の抑制に成功したとする。

  • メサストライプ端で観察される結晶欠陥とその制御

    メサストライプ端で観察される結晶欠陥とその制御 (出所:名大プレスリリースPDF)

さらに、光学設計の改良と薄膜結晶成長条件の改善も同時に行われ、しきい値電流密度が4.2kA/cm2、またしきい値電圧が8.7Vと世界最高水準にまで改善されたという。これにより、レーザー発振に必要な駆動電力を従来の1/10に低減することが可能になったという。

  • 連続発振光が、深紫外線が当たると光を発する蛍光塗料が塗られたスクリーンに投影された様子

    連続発振光が、深紫外線が当たると光を発する蛍光塗料が塗られたスクリーンに投影された様子。(左上挿図)作製された深紫外半導体レーザーのパッケージ (出所:名大プレスリリースPDF)

なお、作製されたUV-C LDのパッケージデバイスを用いた室温直流電流での駆動においては、連続発振光が明瞭に観測されたとのことで、この成果について研究チームでは、UV-C LDが、将来的に実用化しうるポテンシャルを持つことを充分に示唆する結果としている。