キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)は11月25日、同社の今後の事業方針に関する記者説明会を開催した。

説明会では、同社が2023年1月下旬より提供開始するクラウド型ローコード開発プラットフォーム「WebPerformer-NX」の概要も紹介された。

【関連記事】
≪ローコードでOracle Fusionを拡張できる「Applications Platform」発表-Oracle CloudWorld 2022≫
≪ServiceNow、ハイパーオートメーションを支える市民開発向けの機能強化≫

システムインテグレーションの質向上、既存サービスをクラウド化

キヤノンITSは2021年10月に、2025年に同社がありたい姿や事業モデルを「VISION2025」として発表し、現在は「共想共創カンパニー」を目指してサービス提供モデル、ビジネス共想モデル、システムインテグレーションモデルの3つの事業を推進している。

  • キヤノンITSが目指す「共想共創カンパニー」のイメージ

    キヤノンITSが目指す「共想共創カンパニー」のイメージ

3つの事業を推進していくことで、キヤノンITSは2025年に全社の売上を2021年比1.5倍に拡大させる目標を掲げる。サービス提供モデルで、売上を同比で2倍に、システムインテグレーションモデルは売上を同比1.3倍にする目標を立てる(ビジネス共創モデルの売上は他2モデルに含まれる)。

キヤノンITS 代表取締役社長の金澤明氏は、「3つの事業モデルの強化を通じてお客さまへの価値提供を最大化し、当社そのものも利益ある成長拡大を果たしたい。得られた収益は将来の投資にまわして、さまざまな技術やサービスのビジネス適用を進め、さらなる価値提供につなげていく、成長への投資サイクルの実現も目指していく」と説明した。

  • キヤノンITソリューションズ 代表取締役社長 金澤明氏

    キヤノンITソリューションズ 代表取締役社長 金澤明氏

説明会にて金澤氏は、3つの事業における2022年の取り組みを紹介した。

システムインテグレーションモデルにおいては、製造業、流通業、金融業、教育機関のシステム基盤・データ基盤の高度化を支援するプロジェクトを手掛けた。その中でも流通業においては、同社の物流計画ソリューションに数理最適化技術を活用。また、大手電子機器製造メーカーには、ビジネス戦略や商品戦略の策定を支援するデータマネジメントサービスの提供を開始したという。

金澤氏は、「システムインテグレーションの質向上に2022年は務めた。お客さまのニーズに応えるだけでなく、課題は何か、本来あるべきシステムは何かなどを社内でも議論してきた」と明かした。

サービス提供モデルでは、既存サービスのクラウド化を進めるほか、サービスデータセンター事業に関連してSOC(Security Operation Center)サービスの提供を開始した。11月30日からはクラウドネイティブなEDI(Electronic Data Interchange)サービスとして「EDIMaster Cloud」の提供を開始する。

このほか、2022年1月に新設したビジネスインキュベーションセンターにおいても、顧客の共通課題にマッチする付加価値の高いサービス創出に向けて、事業構想とサービス化を進めているという。

ビジネス共創モデルにおいては組織の再編・強化を行った。具体的には、ビジネスデザイン、システムデザインを実現するチームと、数理最適化技術を用いてデータドリブン経営を支援するビジネスサイエンスのチームを1つの部門に統合した。

新たな体制の下で、すでに複数社に対してDXグランドデザインやDX戦略・方針の策定支援、ビジネスの構想作りと試作システムのアジャイル開発実施、システムグランドデザインRFP作成などを行っている。

  • 新たな事業区分「ビジネス共創モデル」の成長に向け組織体制を強化

    新たな事業区分「ビジネス共創モデル」の成長に向け組織体制を強化

3つの事業実現に向けて人材育成にも注力する。成長段階に応じた体系的な教育プログラムを用意し、新たなサービス創出につながるサービス創造人材の育成を開始し、従来のSE教育を発展させてSI共創人材の育成にも着手し始めた。また、事業拡大に向けたパートナーとのアライアンスの拡大も進める。

  • 「サービス創造人材」の育成に着手

    「サービス創造人材」の育成に着手

「2025年に向けて着実に3つの事業を進捗できている。基本的な戦略としてはお客さまの課題を解決し、ビジネスゴールを目指すこととする。ITライフサイクルをフルサポートし、共通課題を解決するソリューションとサービスを提供。お客さまとの共想共創活動の実績を積み上げて、事業活動の価値のスパイラルアップを図りたい」と金澤氏は語った。

ビジネス部門とIT部門の共創を支援するローコードツールを提供

説明会の後半では、クラウドベースのローコード開発プラットフォームの新製品である「WebPerformer-NX」の概要が紹介された。

Webアプリケーションの効率的な開発を支援する現行の「WebPerformer」と異なり、WebPerformer-NXは顧客接点のデジタル化領域を支える製品として位置付けられる。

同製品では業務プロセスのデジタル化に必要なワークフローエディタや、ツールから得たデータを管理するデータベース機能を標準搭載している。Webアプリケーションのプロトタイプ確認ができる環境は無償で提供する。このほか、WebAPIも提供しているため既存の外部アプリケーションとの連携も可能だ。

  • 「WebPerformer-NX」の概要図

    「WebPerformer-NX」の概要図

無料で利用できるFreeプランのほか、Basic、Standard、Professionalなど利用人数に応じた有料プランを用意している。なお、有料プランの最低料金は月額14万円(年間契約)となる。

同製品では、WebアプリケーションのUI部品群をドラッグ&ドロップで組み合わせることでアプリケーションの開発が可能だ。例えば、アプリケーションの開発工程で手がかかるデザイン設計とその修正において、同製品ではアプリケーションを作成後に事業部門から修正依頼があった際にも即応できるという。

  • 説明会ではデモ動画で「WebPerformer-NX」の利用例が紹介された

    説明会ではデモ動画で「WebPerformer-NX」の利用例が紹介された

顧客接点の省力化や業務プロセスの自動化などの守りのITが強化されてきた中で、キヤノンITSは事業機会の創出や売上・利益の増大など攻めのIT投資が今後重要になると考え、同製品の提供を開始する。

キヤノンITS 執行役員 デジタルイノベーション事業部門 デジタルビジネス統括本部長の松本一弥氏は、「攻めのIT投資のためには、IT部門がよりビジネス推進に参画していくことが求められる。開発スピードに加えてクリエイティブで豊かな表現力のある、開発自由度の高いローコードソリューションの提供を通じて、ビジネス部門とIT部門のデジタル共創を支援する」と述べた。

  • キヤノンITソリューションズ 執行役員 デジタルイノベーション事業部門 デジタルビジネス統括本部長 松本一弥氏

    キヤノンITソリューションズ 執行役員 デジタルイノベーション事業部門 デジタルビジネス統括本部長 松本一弥氏

同製品は開発環境と実行環境を一体で提供するaPaaS(Application Platform as a Service)となり、開発・実行環境はAWS(Amazon Web Services)上で提供する。ビジネスロジックの開発ではJavaScriptを採用しており、他のローコード開発ツールへの切り替えも可能だ。

今後はSIパートナーを既存の60社から100社超に拡大し、同製品の拡大体制を拡充するという。また、アジャイル開発の支援やカスタマーサクセス部門によるツールの利用定着支援の活動も行っていくという。

将来的にはAIなど開発を簡便にする機能を拡充し、クラウドのマルチプラットフォームにも対応する予定だ。