Micron Technologyは、広島工場で生産が始まった1β DRAMではEUV露光技術の採用を見送り、技術が確立しており高歩留りが期待できるArF液浸リソグラフィを用いたマルチパターニングの技術を採用しているが、2024年以降の立ち上げを予定している1γ(あるいは1Δの可能性も)DRAMについては、EUVリソグラフィ技術を導入する可能性が高い。しかし、ASMLが独占供給するEUV露光装置は、PPL(Plasma-Produced Laser)方式の光源を採用しており、高圧状態のSn(スズ)タンクからSn液滴を落下させそこにレーザー照射するわけだが、この加圧スズタンクが日本では高圧ガス保安法の適用対象とされ、輸入や使用に関して厳しく規制されることが予想される。日本では、光源出力に限界が見えてきたPLL方式にかわり、巨大加速器を用いたFEL(Free Electron Laser)方式のEUV光源が、高エネルギー加速器研究機構(KEK)を中心に識者による共同研究が進められているが、こちらは液化ヘリウムを冷却媒体とする冷凍設備が高圧ガス保安法の規制対象になる。いずれの方式のEUV光源を使用しても将来にわたり高圧ガス保安法の規制を免れない状況にある。

この点に関して、去る11月16日に開催されたマイクロン広島工場の式典における記者会見でメディアから質問がなされ、Micron TechnologyのSVPでグローバルオペレーション担当のManish Bhatia氏は「広島工場での将来的なEUV導入の可能性も見据え、キーサプライヤーとも協議して日本政府に(規制緩和に向けた)働きかけをしている」と語っていた。

毎年1回保安検査のための装置停止が必要

冷凍機システムは、高圧ガス保安法に基づく年1回の保安検査が義務付けられており、自主点検というわけにはいかず、知事、安全保安協会、指定保安検査機関、または認定保安検査実施者が行う保安検査を受ける必要がある。このため、24時間365日稼働し続ける半導体製造装置を何日か停止させねばならず、稼働率の低下をきたすことになる。

著者は、過去にPlayStationの将来モデル向けに最先端微細化パターンの倒壊を防止することを目的に高圧高温状態の二酸化炭素ガスを用いたシリコンウェハの超臨界流体洗浄の研究を行っていたが、その際にこのことを経験した。

定期保安検査を受けるために研究提携先の超臨界流体装置を、毎年、1週間にわたり停止しなければならなかったのだ。のちに、超臨界流体の半導体への応用に関する専門書を出版した際に、この技術が半導体の量産にむけて実用化する場合の課題の1つとして「高圧装置に関する規制緩和(年中無休の半導体製造になじまない規制の数々)」と記述した経緯がある。半導体製造装置は、ほとんどすべて常圧か減圧(真空)のため、使用するガスは高圧だが、装置自身は高圧保安法の規制を受けないので、このような規制は顕在化してこなかった。

  • 半導体・MEMSのための超臨界流体

    筆者も関わった「半導体・MEMSのための超臨界流体」(コロナ社、2012年)のp.108に記載された半導体製造用「高圧装置に関する規制緩和」の必要性

広島県はすでに規制緩和を国に要請

広島県は、2022年6月に関係各省庁に対する県の要望事項をまとめて「令和5年度施策に関する提案」を発行し、その中の「産業競争力の強化-半導体産業に対する支援」の項で国(経済産業省)への提案事項として、「EUV露光装置を含む研究開発・生産設備への投資を行う民間企業に対し、手厚い支援を行うこと」と並んで「高圧ガス保安法等の規制について、国際基準・規格を活用し、簡素化・緩和を図ること」を国に求めている

高圧ガス保安法を所管する経産省は、半導体を戦略物資ととらえて半導体産業を振興させる役目もおっているので、広島県が要望しているように年中無休で稼働する半導体製造になじまない高圧ガス保安法の規制緩和を図る可能性もあるものとみられる。

  • 広島県「令和5年度施策に関する提案」

    広島県「令和5年度施策に関する提案」のp35に掲載されている半導体産業に対する支援に関して国への提案事項