北海道大学(北大)と理化学研究所(理研)は11月24日、新開発の手法を用いて、星間分子雲中に存在する極低温の氷微粒子の表面上で、化学反応を起こしやすい化学種の「OHラジカル」が動き始める温度を調べることに成功し、その温度が-237℃であることを発表した。
同成果は、北大 低温科学研究所の宮崎彩音大学院生、同・渡部直樹教授、理研 仁科加速器科学研究センターの中井陽一専任研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。
星は、最低温度-263℃という極めて低温の星間分子雲から誕生する。星間分子雲は極低温のため化学反応が起こりにくい環境にもかかわらず、有機分子を含む多種多様な化学種が存在することが、これまでの観測により解明されてきた。
こうした化学種は原子や単純な分子から複雑化(分子進化)してできたもので、星間分子雲に浮遊している氷微粒子(氷星間塵)が重要な役割を果たしていることが知られている。氷微粒子は、ケイ酸塩鉱物や炭素質物質の周囲を主に水分子(H2O)からなる氷が覆った、0.0001mm程度の微粒子とされている。
氷微粒子上での化学反応の鍵を握るのは、ラジカルと呼ばれる非常に化学反応を起こしやすい化学種とされており、中でも、H2Oから水素原子(H)が1つ取れたOHラジカルは氷微粒子上に大量に存在し、さまざまな分子の生成に大きな役割を果たすと考えられている。
OHラジカルは氷微粒子の表面に比較的強く結合しているため、氷微粒子の温度が上がり、それが表面を動き回る温度になってはじめて分子進化は活性化する。つまり、氷微粒子上での分子進化について理解を深めるためには、OHラジカルが動き始める温度を実験により決定することが重要と考えられてきたのだが、氷表面に存在するOHをH2Oと区別して感度良く観測することは困難で、これまでその情報は得られていなかったという。
そこで研究チームは今回、新たな観測手法の開発を行うことにしたという。