厚生労働省は22日、塩野義製薬が開発した新型コロナウイルス感染症の軽症患者向け飲み薬「ゾコーバ」を緊急承認した。緊急承認制度適用の第1号で、12月から初の新型コロナの国産の飲み薬として医療現場で使われる見込みだ。新型コロナの医療費は公費のため現行制度下では患者の自己負担はない。
ゾコーバは塩野義製薬が開発した低分子の飲み薬(経口薬)。新型コロナウイルスが増殖する時に必要な「3CLプロテアーゼ」という酵素が働くのを選択的に阻害してウイルスの増殖を防ぐ仕組みだ。軽症者に使える飲み薬としては、米メルクのモルヌピラビル、米ファイザーのパキロビッドに続き3種類目。先行2薬は重症化リスクのある人など服用対象が限られているのに対し、ゾコーバは重症化リスクのない人も対象に含まれているのが特徴だ。
中間段階の臨床試験(治験)では有効性を示せず、7月に開かれた厚労省薬事・食品衛生審議会の薬事分科会と専門部会の合同会合では承認が見送られ、継続審議になっていた。22日開かれた会合では、軽症と中等症の患者約1800人を対象にした最終段階の治験結果で薬の有効性を示すデータが出され、委員の賛成多数で緊急承認が了承された。
提示されたデータによると、オミクロン株に特徴的な鼻水や喉の痛み、せき、発熱、倦怠(けんたい)感の5つの症状が消えるまでの期間は偽薬のグループが約8日だったのに対し、ゾコーバを服用したグループは約7日と1日短縮されていた。また体内のウイルス量もより多く減少し、重い副作用もみられなかったという。
ゾコーバは12歳以上を対象に服用初日は3錠(375ミリグラム)、2日目以降は1錠(125ミリグラム)を計5日間服用する。発症3日目までに服用しないと効果がない可能性もある。併用できない薬が高血圧や高脂血症の薬など36種類ある。また胎児に奇形が生じる可能性があるとの動物実験データもあるため、妊婦や妊娠している可能性がある患者は使えない。
緊急承認制度は、新たな感染症など国民の生命に重大な影響を及ぼす恐れがある疾患のまん延を防ぐため、緊急に必要な医薬品に適用する薬事承認制度で5月に創設された。他に代替手段がないことが条件で、治験終了前でも有効性が推定されれば承認できる。
塩野義製薬は2月に国内初の軽症者向け飲み薬として承認を申請。その際は迅速審査が期待できる「条件付き早期承認制度」の適用を要望したが、その後、緊急承認制度ができたため同制度適用を改めて申請していた。
政府は既に100万人分の購入契約を同社と締結している。医療現場には軽症者向けで手軽な国産飲み薬の登場で「治療の選択肢が増える」と緊急承認待望論があった。治験データの「症状が消える効果が出る1日の差」の具体的な治療効果を疑問視する指摘も一部にあったが、ウイルス量が早く減ると症状の進行を抑えて感染の広がりを抑制するとして評価する声は多い。
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