エジプト・シャルムエルシェイクで開かれていた国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)第27回締約国会議(COP27)は予定会期を2日延長した現地時間の20日午前、気候変動により生じた発展途上国の「損失と被害」に対する支援基金を創設することで合意。その後この合意を盛り込んだ成果文書を採択して閉幕した。

会議は気候変動の被害支援に特化した初の基金創設という成果を上げた一方、採択文書には温室効果ガス削減対策を加速させるための具体的な数値目標や化石燃料の廃止につながる内容は盛り込まれず、世界的に気候危機が顕在化する中で開催された会議は重い課題を積み残した。

採択された成果文書は「シャルムエルシェイク実施計画」と題し、「科学と緊急性」「エネルギー」「緩和」「適応」「損失と被害」「気候資金」など17項目、13ページ。議長を務めたエジプトのシュクリ外相が会期延長翌日の19日に成果文書案として提示。この中に途上国が求めていた支援基金を創設する内容も含まれていた。

日本の環境省関係者によると、会期中の水面下の交渉でも対策加速のための具体策や化石燃料廃止に関する項目では各国間の意見の隔たりが大きく、会議終盤を迎えて決裂の恐れも出ていた。何らかの形で成果を残したいシュクリ議長らの調整に対し、欧州主要国がまず動き、米国もこれに追随して先進国側が歩み寄る形で「損失と被害」基金創設で合意に至ったという。

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    会期を2日延長して成果文書が採択され、閉幕直前のCOP27の様子。座っているのがシュクリ議長(Credit:Kiara Worth)(UNFCCC/COP27事務局提供)

「損失と被害」への支援基金創設は、温室効果ガスの排出がほとんどなく、気候変動による被害に対する自国責任もないのに海面上昇で国土が浸食される「小島しょ国」が約30年前に提起した長年の課題だ。先進国は被害額が膨大になると予想されることから一貫して創設に反対していた。

こうした長年の会議の流れに対し、この夏大洪水に見舞われ、国土の3分の1が水没したパキスタンのほか、干ばつ被害が続いたアフリカ諸国などの途上国側が会議前から基金設立を強く要求した。今回の議長国であるエジプトがアフリカ諸国の代表として「損失と被害」を議題にするとの強い意向を示し会議冒頭に正式決定した。

延長会期中も徹夜に近い形で断続的に各国間の交渉が続き、最後は何とか基金創設で合意したが、基金拠出元など運営細則は未定。来年秋にアラブ首長国連邦(UAE)での開催が予定されているCOP28で細部について議論される見通しだという。拠出元は先進国に限定されるのか、中国のように排出が多い新興国も含まれるのかなど、今から議論紛糾の可能性がある課題が浮上している。

採択文書にはこのほか、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの導入を加速すべきだとの認識を共有。2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを達成するため、30年までに年間4兆ドルを再生エネに投資する必要があるとの指摘も明記された。

昨年のCOP26では、今世紀末の気温上昇を産業革命前比で1.5度に抑えるための努力を追求することで合意していた。今回会議では「1.5度目標」達成のための具体策は盛り込まれず、目標達成に向け「さらなる努力を追求する」と、「さらなる」の一言が付記される程度にとどまった。

また化石燃料の廃止に関する項目では、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機も反映して、具体的な進展は見られなかった。採択文書では「排出削減策のない石炭火力の段階的削減に努力を加速する」とCOP26の文書とほぼ同じ記述になっている。

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    COP27の会場になったシャルムエルシェイク国際コンベンションセンター(UNFCCC/COP27事務局提供)

今回のCOP27は、気候変動が原因とみられる極端な気象現象による甚大な被害が世界的に頻発して危機感が高まる中で多くの成果を残すことが期待された。しかし「1.5度目標」達成への道筋は見いだせずに閉幕した形になった。

国連のグテーレス事務総長は会議閉幕に際し「損失と被害」基金創設での合意を評価しつつも、現在の各国の対策ではあと9年で1.5度上昇してしまうと指摘されていることを念頭に「我々の惑星はまだ緊急治療室にいる。越えてはならないレッドラインは1.5度上昇を超えてしまうことだ」と述べ、対策の加速を強く求めている。

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    採択された成果文書「シャルムエルシェイク実施計画」の基になったシュクリCOP27議長の成果文書最終案の表紙の一部(UNFCCC/COP27事務局提供)

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