日本IBMは11月17日、IBMと独ボッシュが同月9日付けで材料科学分野における量子コンピューティングの戦略的取り組みにおいて提携し、同時にボッシュが、200を超える組織が参画しているIBM Quantum Networkに参加する予定であることを発表した。
自動車の電装部品などで知られるボッシュは現在、電気自動車や燃料電池車など、今後、生産台数が増加することが確定している電動車の分野に注力しており、そうした電動車における燃料電池、バッテリー、電気エンジン、高度センサなどの進化を重要視しているが、それらに関連する機能材料の多くが強い電子間の相互作用を含んでおり、従来型コンピュータではそうした材料の特性を十分な精度で計算するには性能不足とされている。そこでボッシュは新材料の発見と設計において、量子コンピュータが古典コンピュータよりも大きな利点をもたらす可能性があるとし、量子コンピュータを利用した材料開発に取り組むことにしたという。
今回の提携によりボッシュは、IBM Cloudを介して、IBMの量子テクノロジーと、IBMの量子コンピュータ用ランタイム「Qiskit Runtime」を利用できるようになるとしており、IBMも、量子コンピューティングの技術、および量子アルゴリズムの開発および業界特有の実装における専門知識を提供するとしている。また今後は、両社の研究者・技術者らが共同で、材料科学分野における量子コンピューティングを適用することの可能性について研究を行えるようになることから、さらなる発展に取り組むともしている。
加えて両者は、ボッシュが取り組む電動車に関連する分野に対する産業利用を進めるため、堅牢で強力な量子アルゴリズムの共同開発も行うとする。同共同研究については、量子コンピュータ上で産業関連材料の計算材料設計を可能にするアルゴリズムとワークフローの基礎の構築がすでに始められており、初期の成果が早くも上がっているという。それらの中には、単一軌道のハバード・モデルのような固体物理学における一般的な近似を超えて、より現実的なモデルに近づき、対象のシステムのサイズに合わせて、それらを拡大することが含まれるとした。
なお今後は、開発時間やコストの削減、新しい材料群の発見を可能にする方法についての研究を予定しているとする。たとえば、ペロブスカイト型の材料を用いた燃料電池の相安定性図の改善、感知のため欠陥エンジニアリングの強化、現実的な触媒と反応率、予測可能な磁気特性が将来的に実現する可能性があるとしている。
ボッシュ リサーチの責任者であるトーマス・クロップフ氏は、今回の提携に対し、「ボッシュにとって、電動車、再生可能エネルギー、センサ技術の分野に適用される材料は特に大きな役割を担っています。量子コンピューティングは資源の有効活用に役立つので、気候変動や持続可能性の目標を達成するために欠かせない構成要素となる可能性があります」とコメント。
また、IBM Quantum Adoptionand Business Developmentの統括責任者であるスコット・クラウダ―氏は、「単純な実材料のモデルであっても、古典コンピュータによるシミュレーションは、すぐに手に余る状態になりがちです。だからこそ量子コンピューティングの研究において、ボッシュとIBMの連携、そして幅広いIBM Quantum Networkが重要になるのです。私たちは、電動車、再生可能エネルギー、センサ技術などの分野で、広範囲にわたる材料工学の問題解決に協力して取り組んでいきます。当社のチームはボッシュとの連携を楽しみにしています」と述べている。