パーソル総合研究所は11月18日、職場のハラスメントに関する調査結果を発表した。これによると、ハラスメントによる離職は年間約87万人であり、そのうち約57万人が会社に伝えていないという。

同調査は同社が8月30日~9月5日にかけて、調査会社モニターを用いたインターネット定量調査により実施したものであり、調査対象者は全国の20~69歳の男女就業者2万8135人。

今回の調査の結果とオープンデータを基に、2021年の1年間でハラスメントを理由に離職した人を簡易推計したところ、約86万5000人だったという。うち約57万3000人が退職理由としてハラスメントがあったと会社に伝えられておらず、会社が把握できていないと同社は見る。業種別では、宿泊業・飲食サービス業でハラスメントが理由の離職者が多いとしている。

  • 全国のハラスメント離職者数 出典: パーソル総合研究所

調査対象者全員に過去にハラスメントを受けた経験があるか聞くと、34.6%が「ある」と回答した。

また、過去5年以内にハラスメントの被害を経験した3000人に被害の実態を聞いたところ、「自分の仕事について批判されたり、言葉で攻撃される」(65.1%)が最多だった。以下、「乱暴な言葉遣いで命令・叱責される」(60.8%)、「小さな失敗やミスに対して、必要以上に厳しく罰せられる」(58.8%)が続く。

  • ハラスメント被害の経験と実態 出典: パーソル総合研究所

被害者が受けたと認識したハラスメントに会社側が何らかの対応をした割合は17.6%であり、82.4%のハラスメントは未対応だった。

会社側の具体的な対応内容では、「被害者の要望を聞いたり、相談にのってくれた」(40.8%)、「被害者に事実確認のためのヒアリングを行った」(40.2%)、「加害者に事実確認を行った」(38.1%)が多い。

  • ハラスメントに対する会社側の対応 出典: パーソル総合研究所

ハラスメントへの被害者自身の対応で、「特に何もしなかった」が24.4%を占める。周囲の人がハラスメントを目撃した後の対応でも「特に何もしなかった」が41.4%と最多であり、「被害者の相談にのった/声をかけた」が40.7%で続く。

  • ハラスメントに対する被害者や目撃者の対応 出典: パーソル総合研究所

「会議で誰が提案者かによって通り方が異なる」「トラブルの原因が何かよりも誰の責任かを優先する」といった属人思考の風土が強い組織では、ハラスメントは発生しやすいと同社は推測する。また、相談しても無駄だと予期する相談無力感も高いという。

  • 属人思考の風土が強い組織と、ハラスメント発生率や会社・被害者の対応との関係 出典: パーソル総合研究所

上司のマネジメントとハラスメントの関係を見ると、「飲み会やランチに誘わないようにしている」(75.3%)や「ミスをしてもあまり厳しく叱咤しない」(81.7%)など、ハラスメントを回避するような行動を多くとっている上司が多い。

  • 上司のハラスメント回避的なマネジメントの実態 出典: パーソル総合研究所

しかし、こうした上司の行動は部下に上司との心理的な距離感を感じさせ、上司との距離感を感じている部下ほど、過去1年間の成長実感を得られていないと同社は分析する。

  • 距離感と部下の成長実感 出典: パーソル総合研究所

調査結果を受けて同社上席主任研究員である小林祐児氏は、「ハラスメント予防と対処は必要だが、防衛的な施策だけでは不十分だ。職場での対話的コミュニケーションを促進するようなマネジメントの訓練や、その余地を生み出せるような就業環境整備などによる『育成志向のハラスメント対策』が今まさに検討されるべき」と述べている。