アポロ計画以来の有人月探査に利用する米大型ロケット「SLS」の初号機が日本時間16日午後、米フロリダ州のケネディー宇宙センターから打ち上げられた。約2時間後、無人試験飛行の宇宙船「オリオン」を正常に分離し、打ち上げは成功した。2011年に廃止したスペースシャトルの、事実上の後継機。飛行士を乗せて25年にも月面着陸を再開し、月上空に建設する基地で科学実験などを行う。「アルテミス」と呼ばれる一連の国際探査計画には日本も参画し、30年頃の日本人月面着陸を目指している。
「われわれは上昇する。月へ、さらに遠くへ!」。管制員の熱狂の声とともに、SLSは16日午後3時47分、発射台から上昇した。2分後に2基の固体ロケットブースターを分離し、8分後に1段と2段の機体を分離した。2段機体も正常にエンジンを燃焼し、月遷移軌道に到達。打ち上げから1時間54分後にオリオンを分離した。順調にいけば、オリオンは飛行10日目に月上空の周回軌道に到達する。
打ち上げ成功を受け、シャトルでの飛行経験もある米航空宇宙局(NASA)のビル・ネルソン長官は「SLSとオリオンが初めて一緒に打ち上げられ、本当に素晴らしい。この無人飛行試験は、オリオンを厳しい深宇宙の限界まで押し上げ、月、最終的には火星の有人探査へと道を開くだろう」とコメントした。
8月29日に打ち上げが予定されたが、主エンジンの1基の温度異常が判明。9月4日には推進剤の注入時に漏れが止められず、さらに延期となっていた。
米国は現在の国際宇宙ステーション(ISS)に続く大規模な国際宇宙探査として、アルテミス計画を主導。今回の試験飛行「アルテミス1」を検証した上で、有人のオリオンで月上空を飛行する「アルテミス2」を経て、2025年に「アルテミス3」で1972年のアポロ17号以来の有人月面着陸を目指す。2020年代に月上空に有人基地「ゲートウェー」の建設を進めて実験や観測を行うとともに、30年代の有人火星着陸に向け技術実証を進める。一方、25年の有人月面着陸を困難視する見方もある。
SLSは2段式のロケット。1段機体の主エンジン4基はシャトル用の改良版で、液体水素と液体酸素を推進剤に使用。2基の固体ロケットブースターも、シャトル用をベースに開発した。機体は段階的に6パターンの構成が計画されている。アルテミス1で採用した初期型「ブロック1」の全長は、日本の大型機「H2A」の倍近い98メートル。重量は燃料込みで2600トン。打ち上げ能力は地球周回低軌道に95トン、月遷移軌道に27トン。SLSは略称で、正式には「スペース・ローンチ・システム(Space Launch System)」。当初は2017年に初打ち上げが計画されたが、開発が難航し延期を重ねた。
オリオンは機械船部分の開発を欧州宇宙機関(ESA)が担当。今回は無人飛行だが、振動や放射線などを計測するためのマネキン3体のほか、人気キャラクター「スヌーピー」「ひつじのショーン」のぬいぐるみが“飛行士”として搭載された。
SLSは能力の余剰を利用し、2段機体に超小型実証機を10機搭載しており、オリオン分離後に相次ぎ分離した。うち2機は日本のもので、史上最小機体で月面を目指す「オモテナシ」と、軌道制御技術を試験する「エクレウス」。宇宙航空研究開発機構(JAXA)によると、エクレウスは分離後に正常に動作していることを確認した。オモテナシは21日深夜に月面に到達する計画だが、17日午前の時点では太陽光を捉える姿勢が取れず、電力確保や通信の確立ができていないという。
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