秋の行楽シーズンになり、久々に遠出の旅行を計画している人も多いのではないだろうか。筆者の旅の楽しみはというと、旅先での食事である。郷土料理に舌鼓を打つ時間は、そこでしか味わえない至高のひと時である。
そんな郷土料理は、各地域特有の産物を使い、地域独自の調理方法によって作られる。特定の地域で生産されている品種を在来品種といい、日本国内には、特定の地域において栽培され、その地域の気候や風土に適応した在来品種が数多く存在する。また在来品種には、地域の歴史や文化を伝える媒体として、さらに、新品種開発の素材などになる遺伝資源としての価値がある。
しかし近年、その在来品種が人知れず姿を消しているらしい。
今回は、農研機構とファーマーズファクトリーによって行われた、兵庫県の在来品種「播州白水菜」復活への取り組みについて紹介したい。
農研機構とファーマーズファクトリーによる在来品種復活への取り組み
これまで在来品種は、農業従事者が代々自家採種を繰り返すことで受け継がれてきた。しかし近年では、種苗業者などが販売する近代品種が一般的になり、自家採種の機会が減少したこと、そして農業従事者が減少したことなどが要因となり、在来品種が失われつつある。
在来品種に限ったことではないが、一度完全に失われた植物は二度と戻ってこない。そのため、在来品種の保全は、日本だけでなく世界的にも喫緊の課題として捉えられている。
今回、兵庫県の在来品種である播州白水菜の復活に成功した農研機構は、遺伝資源の収集・保存・配布を行う農業生物資源ジーンバンク事業を実施している。
また、農研機構と共に播州白水菜の種子の復活・保存に取り組んだファーマーズファクトリーは、兵庫県多可町に拠点を持ち、日本国内の在来品種の収集・保存を進める一環として、兵庫県の在来品種を中心に自家栽培と有機栽培による野菜作りを進めている。
播州白水菜は、70年以上前から多可町で栽培が続けられてきたが、10年ほど前から栽培が途絶えており、その姿や特徴を知る人はいなかったという。また、多可町に残っていた少量の種子は、採取から10年余りの時間が経過していたため、畑にまいても発芽しなかった。
そこで2者は、播州白水菜の種子が発芽に必要な水分を吸水できるよう種皮を溶解した上で滅菌し、植物の成長に必要な栄養素を含んだ寒天培地にまく方法で、無菌環境での発芽を誘導する処理を行い、その結果およそ50粒の種子が発芽した。
その後、寒天培地で生育させた苗はプランターに移され、温室内にて防虫網で囲って栽培された。
水菜を開花させるためには、冬のような低い気温で一定期間栽培する必要があるが、今回の取り組みは夏に行われたため、冬に近い低温環境を温室内に再現するために人工気象器を使用したとのこと。その結果、十分な栽培期間を経た播州白水菜は開花し、人工授粉によって新しい種子の採集に成功した。
なお、今回栽培に成功した播州白水菜と、同じく多可町で栽培されている在来品種「播州青水菜」とを比較したところ、播州白水菜は、鮮やかな黄色の葉を持つ・分枝の数が多い・葉が広く柔らかいなどの特徴があったという。
ファーマーズファクトリーは今後、播州白水菜を有機栽培して販売するほか、多可町の在来品種の栽培を続けて地域に継承していくとした。一方の農研機構は、播州白水菜の種子をジーンバンクで保存し、今後も都道府県や農業事業者と連携して在来品種の保全に努めるとした。
地域の素晴らしい食文化が消えてしまわないよう、今後の発展に期待したい。