広島大学が、産官学共同の半導体研究開発・人材育成組織「せとうち半導体共創コンソーシアム」(仮称)の設立に向けた準備を始めている。
コンソーシアムを主導する広島大学ナノデバイス研究所(旧ナノデバイス・バイオ融合科学研究所。2022年4月1日より名称変更)が、経済産業省(経産省)による令和3年度の「産学連携推進事業費補助金(地域の中核大学の産学融合拠点の整備)」のうち「テーマ分類:オープンイノベーション推進施設等 整備事業」に採択されたのがきっかけとなった。
今回採択された事業は、地域の中核大学などが強みや特色を有する研究分野において、企業やベンチャー、自治体などとの連携を強化することによって、イノベーション創出や地域経済活性化を促進することを目指すもの。中核となる広島大学ナノデバイス研究所の2つのスーパークリーンルーム(研究用半導体集積回路試作ライン)に付設して、補助金で3階建鉄筋コンクリート造の新研究棟「J-Innovation HUB棟」を建設している。オープン交流拠点と企業研究員の常駐スペースを配置し、極限環境エレクトロニクス・原子層ナノプロセシング研究、AI/IoT・Beyond 6G研究を行うことにしている。この新研究棟は、2023年3月完成の予定である。
2023年度から本格稼働を目指す「せとうち半導体共創コンソーシアム」
同研究所では、半導体分野の産学共同事業を具体化するため、関連企業からなるコンソーシアムを組織化し、半導体研究開発の高度化から人材育成まで幅広い活動を通して瀬戸内地域に新たな経済価値を生み出すことを目標とした「せとうち半導体共創コンソーシアム」(仮称)設立する準備を始めている。2023年度からの本格稼働を目指している。
具体的な半導体の研究テーマとしては、(1)モノ造り産業を支える新素材・新デバイスの開発、具体的には高温・高放射線環境下でも動作可能なSiCデバイスの開発、(2)カーボンニュートラルやゼロエミッションに貢献するクリーンルーム不要で効率的運転のできるスマートファブ実現プロセスの開発、などがあがっている。
強みのある研究開発分野を中心に、地方創世の核として企業との共同研究を加速する体制を構築するとともに、半導体産業を支える中核人事の育成にも注力するという。具体的には、人材育成担当教員によるもCMOS回路を自ら設計し試作できるCMOS実践プログラムを充実するとともに、社会人と学生が研究テーマを共有するCMOS実践アドバンスドコースを新設する。また、高校・大学連携による半導体研究開発人材の早期育成にも努めるという。
アリゾナ州立大をモデルとしたアカデミックエンタープライズ構想
さらには、「Town & Gown(地元の町と大学)」構想の推進で広島大学にイノベーション創出環境の形成を行うという。
Town & Gown構想とは、米国生まれのアカデミックエンタープライズという構想で、公的資金以外の収入基盤を多様化して地域社会の課題解決に目を向けながら先端の学術・研究を展開する新しい大学運営モデル。アリゾナ州立大学をモデルに同大学とも交流し、国際レベルの研究パートナーシップを実現したいと意気込んでいる。
広島大学ナノデバイス研究所の所長の寺本章伸 教授は、三菱電機LSI研究所、そして東北大学未来科学技術共同研究センター(助教授、准教授、教授、現在は客員教授を兼務)を経て、2019年に広島大学に教授として着任し、企業と大学の両方で長年にわたり研究を行ってきた経験を有する人物。そうした経験がコンソーシアム活動でも生かされることが期待される。
地元の東広島市は、企業版ふるさと納税を活用して広島大学「せとうち半導体共創コンソーシアム」を支援する計画で、寄付した企業は、法人税や法人事業税や地方税の軽減措置が取られるという。
Micron広島工場とも連携を密に
広島大学と同じ東広島市内には、Micron Technologyの先端DRAM研究開発・生産拠点に位置づけられる広島工場がある。
同社の次世代DRAM生産計画が経済産業省の「特定半導体生産施設整備等計画」に適合すると同省が2022年9月30日付けで認定し、465億円の補助金を支給することを決めたが、その支給に際して、Micronは、広島大学をはじめとした主要大学において4年間で80件以上の講演・講義を提供し、中国地域半導体関連産業振興協議会にコアメンバーとして参画することを約束している。
広島大学は同じ市内にあるMicronとの縁が深く、ナノデバイス研究所を中心に交流を続けている。次世代の半導体人材育成に役立つことを願って、大学ではMicronの技術者を講師とした講座を開設したり、教育イベントに参加してもらったりしてきた経緯があり、「せとうち半導体共創コンソーシアム」が発足した際には、同社とのさらに密接な連携が期待されている。