産業技術総合研究所(産総研)は11月11日、希薄な大気中CO2でも高選択に分離回収するイオン液体膜を開発したことを発表した。

同成果は、産総研 化学プロセス研究部門の河野雄樹主任研究員、同・金久保光央研究部門付、同・牧野貴至研究グループ長、ダイセルの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する化学と科学のインタフェースに関する全般を扱う学術誌「ACS Omega」に掲載された。

大気中からCO2を直接的に分離回収するDAC技術として、欧米を中心に化学吸収法や化学吸着法による技術実証が進められているが、分離材料に吸収もしくは吸着させたCO2の回収に多量の熱を消費する点が大きな課題となっている。そこで、研究チームは今回、原理的に熱エネルギーを必要としないCO2分離技術である、膜分離法に着目することにしたという。

産総研では、揮発せず、熱的・化学的に安定なさまざまなイオン液体を合成し、CO2分離回収技術を開発してきた。これまで、CO2を化学吸収するイオン液体の分子構造を変えて塩基性を制御することで、上市されているものよりも20℃以上低い、100℃以下でCO2を回収できるイオン液体の開発にも成功している。そこで今回は同技術を発展させ、熱エネルギー消費量の削減を目指して、イオン液体を多孔質材に含浸させたCO2分離膜(イオン液体膜)の開発に取り組むことにしたという。

具体的には、より高性能なCO2分離用イオン液体の開発として、イオン液体へのCO2の吸収と、吸収されたCO2をイオン液体から脱離させて回収する各ステップを共に高速化するため、役割の異なる2種類のイオン液体を混合することが着想され、CO2と化学反応するイオン液体(IL1)と、化学反応により生成された化合物と溶媒和するイオン液体(IL2)の混合イオン液体が開発された。

そして、混合イオン液体を多孔質材に含浸させることで、イオン液体膜が作製された。膜の上流側にCO2と窒素(N2)を混合したモデルガス(CO2濃度:0.04%)を、下流側にスイープガスとしてヘリウム(He)がそれぞれ供給され、その特性が計測された。