日本に多くみられる海鳥のオオミズナギドリが、台風の中心へ飛ぶことを重要な手がかりとして、陸へ飛ばされないようにしていることが分かった。海鳥で初めての知見で、名古屋大学など日英の研究グループが発表した。野生動物に機器を取り付け生態の情報を記録する「バイオロギング」などの手法を用いた。野生動物の台風に対する行動が分かったのは珍しいという。
野生動物の台風への対応は、観察が難しい。特に海鳥は陸の生物よりはるかに強い風にさらされているはずだが、どう過ごしているのかは未解明だった。
そこで研究グループは新潟県の離島、粟島で繁殖するオオミズナギドリを対象に調査した。翼を広げた幅は120センチ程度。捕食者に襲われる恐れがあり、平地から飛び立つのも苦手のため、通常は陸の上を飛ばない。雛を育てるのは台風シーズンの8~11月で、何らかの対応をしていると予想された。2008~18年に計401羽について、緯度と経度を記録する装置を着けて放ち、後に回収した。このうち台風(一部は台風に満たないものの勢力の強い低気圧)に遭遇した75羽の経路を詳しく調べた。
その結果、これらが台風の中心に向かって飛んだことが分かった。8時間以上も台風の中心を追ったものもいた。ただ秒速10メートルを境に、それ以上の強い風に吹かれると中心へと飛ぶが、それ未満だと逆に遠ざかる傾向がみられた。また離島ではなく大きな陸地、つまり本州本土に近づいてしまう場合は、台風の中心には向かわなかった。
このバイオロギングのデータを基に、コンピューターでオオミズナギドリの行動を採り入れた模擬鳥の動きをみたところ、多くは海上にいたものの、一部が陸に到達してしまった。模擬鳥に陸地の情報は入れていなかった。
一連の結果から研究グループは、オオミズナギドリが陸に行かないよう、台風の風の状態や位置関係、さらに地理情報をも捉えて行動していると判断した。台風の中心に向かい、陸に飛ばされるリスクを低減していることが分かった。
研究グループの名古屋大学大学院環境学研究科の依田憲教授(動物行動学)は「台風を避けるどころか、向かっていることに驚いた。体内のどんな仕組みで台風の中心を判断しているのかは不明。方位を探知する『頭方位細胞』や、さまざまな感覚を総動員しているのでは。台風に合わせてバイオロギングを行うのは難しく、10年以上続けたからこそ得られた成果。他の海鳥は今後の課題。研究を続ければ、野生生物が地球環境の変化にどう対応するのか、解明につながるかもしれない」と話す。
研究グループは名古屋大学、英スワンジー大学、英リーズ大学で構成。成果は「米科学アカデミー紀要」に10月4日掲載され、名古屋大学が同24日に発表した。
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