今夏、世界中で熱波や大雨、干ばつといった極端な気象現象(極端気象)が頻発し、甚大な被害を出した。一方、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機は世界の脱炭素の流れに影を落としている。こうした気候危機と厳しい国際情勢の中で国連の気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)が6日、エジプト東部シャルムエルシェイクで開幕し、18日までの日程で各国間の激しい議論が続いている。

世界で顕在化している気候危機は今後一層高まり、人類への被害も甚大化すると予測されている。人類生存にも関わる被害の回避に向けた温室効果ガス削減対策を加速する計画(緩和作業計画、MWP)が検討されている。今回の会議でこのMWPが採択できるかは大きな焦点だ。しかし会議関係者によると、会議冒頭から対策の加速や資金問題などを巡って先進国と途上国の対立が鮮明になっている。

会期中の交渉は難航が予想され、具体的な成果が得られるかどうかは不透明だ。今世紀末までの気温上昇を1.5度に抑える目標につながる内容を盛り込んだ合意文書を採択できるかは予断を許さない。

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    開幕後のCOP27全体会合の様子(UNFCCC/COP27事務局提供)

COP27事務局などによると、会期2日目の7、8日に首脳級会合が行われ、国連のグテーレス事務総長が冒頭に演説して危機感をあらわにした。グテーレス氏は「気温上昇を1.5度に抑える目標達成のためには2050年までに地球全体で脱炭素を実現しなければならない。しかし、(人類の)『生命維持装置』(のこの目標)はガタガタと音をたてている。(我々は)後戻りできない危険なところに近づいている」と述べた。

グテーレス氏は、OECD(経済協力開発機構)諸国は2030年までに、その他の国は40年までに石炭利用を段階的に廃止する協定をつくることを提案。「米国と中国は協定の実現に向けた特別の責任がある」と国を名指して協定の必要性を強調した。さらに「人類には選択肢があるが、協力するか滅びるかだ」と強い表現を使って各国代表に合意に向けた大胆な政策判断を求めている。

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    COP27の首脳級会合で冒頭演説する国連のグテーレス事務総長(UNFCCC/COP27事務局提供)

首脳級会合は2日間にわたり欧州主要国の英国、ドイツ、フランスの各首脳ら各国首脳級が自国の取り組みを紹介。テーマ別に非公開で意見を交わした。国土の約3分の1が大洪水で水没したパキスタンのシャリフ首相ら多くの途上国首脳は、気候変動による被害の甚大さと先進国からの支援を訴えた。

シャルムエルシェイク発共同電は、ウクライナのゼレンスキー大統領がこの首脳級会合にメッセージを寄せ、「ロシアの侵攻がエネルギー危機を招き、多くの国が石炭火力発電への依存を高めた」と非難し、気候変動対策の観点からも制裁の必要性を訴えた、と伝えている。

首脳級会合は8日終了。米国は中間選挙後の11日にバイデン大統領が参加する予定。日本の岸田文雄首相は欠席し、西村明宏環境相が会期後半の閣僚級会合に出席する予定という。

COP27はCOPが初めてアフリカで開かれることから議長国のエジプトは途上国対策を重視し、会議の冒頭「損失と被害」と呼ばれる途上国向けの資金支援問題を主要議題とすることが決まった。

各国が排出削減対策を進めても、気候変動による被害を完全に回避することは不可能とされる。「損失と被害」は途上国側が「気候変動による被害は排出を続けてきた先進国に責任がある」として途上国内の被害への補償を求めている問題だ。

パキスタンのシャリフ首相によると、同国の排出量は世界全体の1%にも満たない。アフリカの多くの途上国は記録的な干ばつに苦しんでいる。途上国の間ではパキスタンの甚大な被害を引き合いに「損失と被害」への補償を求める主張が高まっている。

環境省関係者によると、首脳級会合でドイツのシュルツ首相ら一部の先進国首脳は「損失と被害」問題に理解を示したが、水面下の交渉では先進国と途上国間の意見の隔たりは大きいという。

ロシアのウクライナ侵攻がきっかけとなり、世界のエネルギーや食料の価格が高騰した。多くの先進国では国内でインフレが進行するなど、足元の経済が揺らいでいる。このため会議に参加する先進国側は「途上国向け資金援助として既に多額の拠出を約束している」との立場。多くの先進国は「損失と被害」に特化した新たな資金拠出には極めて消極的だという。

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    COP27ではさまざまなテーマで公式、非公式の会合が開かれている。会合の一つの様子(UNFCCC/COP27事務局提供)

昨年10月から11月にかけて英国・グラスゴーで開かれたCOP26でも交渉は難航したが、会期を1日延長して最終的に「産業革命前から今世紀末までの気温上昇を1.5度に抑えるための努力を追求する」ことを盛り込んだ成果文書を採択して閉幕した。

2015年に採択され、20年から本格始動した「パリ協定」は気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑えることを目指している。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)などは「1.5度上昇」が人類に深刻な影響が出るか否かの境界値としている。このためCOP26の最終局面で各国は気温上昇を1.5度に抑える努力を追求することが決まった。

COP26の後、各国は2030年までの温室効果ガス削減目標(NDC)を提出した。国連環境計画(UNEP)の分析によると、各国が約束したNDCが達成されても今世紀末には2.5度、対策を強化しないと2.8度それぞれ上昇してしまうことが判明。COP27では各国の削減目標を加速させるためのMWPをまとめ、採択することを目指している。

ロシアのウクライナ侵攻に伴うロシア産天然ガスの供給不安は、エネルギー価格の高騰を招いた。再生可能エネルギーの普及に積極的だった欧州主要国の一部にも、石炭火力発電回帰の動きが出ている。こうした国際情勢を受けて「COP27はこれまでにない逆風の中での開催だ」(環境省関係者)と会議の行方を懸念する指摘は多い。

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