よりよい未来社会のあり方を科学者と市民がともに考える国内最大級の科学イベント「サイエンスアゴラ2022」が6日、全日程を終え閉幕した。3年ぶりに東京・お台場で実地開催にこぎ着けた今年は、オンラインと合わせ140超の企画で構成。人々が直接、顔を合わせての議論や体験型企画が復活し、にぎわいをみせた。
科学技術振興機構(JST)が主催し今年で17回目。例年、お台場で開催していたが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受け、2020年と21年はオンライン形式とした。今年は十分な感染予防対策を取った上で一部の実地開催を決定。10月2、20~22日、11月1日のオンラインに続き、4~6日にテレコムセンタービル(東京都江東区)を主な会場として開催した。
今年のテーマは「まぜて、こえて、つくりだそう」。科学技術の魅力を伝えるとともに、対話を通じ、科学技術をめぐる課題や、未来社会を考える場を目指した。主催者企画を除く全企画が公募で選ばれ、自然科学のみならず人文・社会科学を含めた研究者、企業、学生・生徒、科学館などがセッション企画やブースを提供した。
会期中、オンラインやステージでは科学技術のあり方、社会との関係性に関するもののほか、ごみ問題や睡眠、がん、食、ロボット、地球外生命など多岐にわたるテーマで、発表や議論が活発に繰り広げられた。登壇者からは「異なる経歴や文化を持つ人々が混ざることが、新しい物を生み出し、気づく機会になる」「持続可能なものは、人々が大人になるまでに学ぶ文化の土台がしっかりしたもの、地球や土地に根ざしたものでなければ生まれてこない」「市民と科学の距離を縮めるには、市民が入り込みやすい何らかの付加価値を、科学に込めることが望ましい」などと、思い思いの持論や提言が示された。
専門家からは活動や、成果を社会に役立てることの難しさを明かす率直な声も聞かれた。「少しの分野の違いでも理解の壁を感じてしまう」「使いやすい物を開発したつもりでも、高齢者に『分かりにくい』と不評だった。分かりやすさ、分かりにくさとは何なのか考えさせられた」「論文を書くのは得意でも、製品化は難しい。性能だけでは駄目で、安全性や、量産できるかといった課題に直面した」
実演や体験、参加型の企画、活動紹介のブースに参加者が列を作った。出展者は「オンラインでは全国から参加を得た半面、参加者が“視聴者”になって受け身になりがちだった。会話が生まれやすいのはやはり、顔を合わせる状況だと痛感した」「一般来場者はもちろん、他の出展者が立ち寄ってくれ、交流して新しい視点を得るのは、同じ場所にいるからこそ」「来場者に研究に直接触れてもらい、興味のきっかけを作れる貴重な機会。コメントをもらい刺激になった」と、手応えを感じていた。
自由にコメントを残せる会場内の「ご意見募集ボード」は「やっぱり科学は楽しい」「自分で調べてみるのも面白そうだと思った」「職場と自宅の往復で固まった頭にたくさん刺激を受けた」と多彩な声で埋まった。科学技術のさまざまな分野とのつながりをもっとみたいとの声や、子供たちに人気の実験を大人もやりたかったといった旨の感想も残された。
来場したさいたま市の高校教員の40代男性は「どの企画も個性的で面白く、魅力がある。部活動に紹介できそうな実験を多く知ったのもよかった」と充実を語った。いくつかの展示は、参考にするためスマートフォンで撮ったという。東京都杉並区の男子中学生(14)は「普段みられない科学技術に触れ、普段会えない研究者と話せた。自分の持つ価値観が広がった」。江戸川区の男子中学生(14)は「気軽に質問でき楽しかった。科学技術全般に触れられる半面、特定の分野を目当てに来ると物足りない気もした。開催を増やしてほしい」と話した。
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