東芝は11月8日、インフラなどの保守点検に用いられる超音波非破壊査向けに、対象物と探触子の間に塗布する液体の接触物質を用いなくても超音波を対象物に通すことを可能としつつ、滑らかに対象物上を移動可能な「滑る超音波透過シート」を開発したことを発表した。

従来、超音波非破壊査の接触物質にはゲルやペースト、非毒性の液体か、シリコーンシートなどの高分子弾性体などといったゴムシートが用いられてきたが、液体を用いた場合、検査対象を汚染する可能性や、検査前の検査対象の養生と検査後除去の必要性、多孔質や濡れ性の低い面には使えないという課題があった。一方のゴムシートを用いた場合は粘着性があり、測定ごとに都度引きはがす必要があり、作業性に問題があったという。

  • 従来の超音波非破壊査向け接触媒質の概要と課題

    従来の超音波非破壊査向け接触媒質の概要と課題 (資料提供:東芝)

そうした背景から、現在のインフラ分野における超音波非破壊検査を用いた保守点検においては、液体の場合、検査対象の内部に浸み込まないようにするための追加作業が必要とされているほか、粘着性シートを用いる場合は、潤滑性がトレードオフとなってしまい、作業時間が増えてしまうという課題があったという。

  • 滑る超音波透過シートのコンセプト

    滑る超音波透過シートのコンセプト (資料提供:東芝)

今回、同社が開発した滑る超音波透過シートは、そうした課題を解決することを目的に開発されたもので、探触子側にエラストマを活用した粘着性シート、検査対象側にポリマーを活用した滑り材を組み合わせることで、通常は滑らかに移動するが、荷重を印加することによって粘着性ソートが滑り材の間に入って超音波を検査対象に伝播する仕組みを考案。実際にステンレス鋼平面において、ゴムシート比で静摩擦係数の低減を確認したほか、荷重を加えてから超音波が十分に検査対象に伝搬するまでの応答時間は50ms以下ながら、荷重をかけなくなるとすぐに滑るようになることも確認したという。

  • 従来の個体の接触物質と比較して小さい摩擦係数を確認したとする

    従来の個体の接触物質と比較して小さい摩擦係数を確認したとする (資料提供:東芝)

  • 荷重を加えてから超音波が十分に検査対象に伝搬するまでの応答時間は50ms以下を確認

    荷重を加えてから超音波が十分に検査対象に伝搬するまでの応答時間は50ms以下を確認 (資料提供:東芝)

  • 「滑る超音波透過シート」を用いた探傷実験の様子

    「滑る超音波透過シート」を用いた探傷実験の様子 (資料提供:東芝)

同社では、今回開発した技術について、検査対象の汚染可能性は低く、検査後の除去も不要なため、さまざまな検査対象に使える可能性が高く、接触子と一緒にシートがくっついて動くことからロボットへの搭載も可能なため、さまざまな検査分野での検査時間の短縮が期待されると説明している。

なお、同社では今後も同技術の開発を進め、2024年度中には何らかの形で上市したいとしている。