台湾の半導体およびハイテク産業市場動向調査会社であるTrendForceが、2023年のハイテク産業のさまざまなセグメント(半導体、ディスプレイ、通信、コンシューマエレクトロニクス、新興技術など)で起きると予想される10の主要な技術トレンドを発表した。
TrendForceが予測する2023年の10大技術トレンドは以下のとおり。
- 先端半導体プロセスはトランジスタ構造の移行期に、成熟プロセスは特殊用途開発を拡大
- 車載ICの深化と次世代パワー半導体が台頭
- 新たなDRAM世代の登場、200層以上のNANDの開発が加速
- 車載用MLCCの開発が加速
- カーボンニュートラルがEVへの移行を加速
- 中国パネルメーカーが生産能力と技術を確保し、小型AMOLED市場で影響力を拡大
- マイクロLEDが多くのアプリケーション向けに多様化、TVや車載ディスプレイがミニLEDバックライトの普及を促進
- 5Gスマートフォン(スマホ)の割合が60%を突破
- AR/VR製品がグリーン製造に不可欠となり、メタバースの普及を加速
- 5G FWA(Fixed Wireless Access)の商用利用が開始、ホームブロードバンドの普及を加速
半導体プロセスの動向
先端のファウンドリプロセスは16/14nm以降、プレーナ型からFinFET型に移行したが、7nmプロセスでのEUVリソグラフィ技術の導入後、3nmプロセスで物理的な限界に直面している。そのため、それ以降のプロセスについては、TSMCとSamsung Electronicsは見解を異にしており、TSMCは2022年下半期から量産予定としている3nm製品でもFinFET構造を採用し、2023年上半期より正式にリリースし、その後、段階的に生産規模を拡大させていく計画としている。
一方のSamsungは3nmでGAA(Gate-All-Around)FETベースのMBCFET(Multi-Bridge Channel Field-Effect Transistor)アーキテクチャの導入を開始、2022年より生産を開始。第1世代製品は暗号通貨マイニングチップだが、2023年には、スマホSoCの大量生産を目標に、第2世代3nmプロセスに注力するとしている。
いずれにせよ両社は、3nm量産の初期段階にあるHPCおよびスマホプラットフォームに引き続き注力する予定で、これらの製品からはパフォーマンスの向上、消費電力の削減、およびチップ面積の縮小に対する高い要件があるためだとしている。
28nm以上の成熟プロセスでは、ファウンドリは特殊プロセスの多様化開発に注力しており、ロジックプロセスからHV(High Voltage)、アナログ、ミクスドシグナル、eNVM、BCD、RFなどの技術プラットフォームを開発している。これらは、スマホ、家電、HPC、自動車および産業用コンピューティングなどで必要とされる、電源管理IC、ドライバIC、マイクロコントローラ(MCU)およびRFなどの周辺ICを専門的に製造するために使用される。
車載半導体のトレンド
自動車産業はCASEに向かっており、それに伴って車載半導体の需要が高まっている。
自動車の機能の複雑化により、市場では32ビットMCUタイプのECUが主流となっている。2023年には普及率が60%を超え、市場価値は74億ドルに達する見込みで、28nm以下のプロセスに向かって開発が進んでいる。
また、自動運転車には高性能なAI SoCが必要であり、コンピューティング能力が1,000TOPSに達する5nm以下の先端プロセスでの適用に向けた開発が続けられており、MCUの進化とともに、自動車産業のアップグレードを加速している。
一方、電気自動車(EV)の800V対応、高電圧DC充電パイル、高効率グリーンデータセンターの急速な台頭により、SiCやGaNパワーコンポーネントが急速に注目を集めるようになっている。TrendForceは、2022年から2026年にかけて、SiC/GaNパワーデバイス市場の平均年間成長率がそれぞれ35%および61%に達すると予測している。EVの急速充電などの需要が差し迫ったものになるにつれて、2023年までにメインインバーターにSiCを導入する自動車メーカーが増えると予想される。中でも信頼性が高く、高性能かつ低コストのSiC MOSFETが競争の焦点となっている。
またGaNは、低電力の家電での採用から中電力および高電力のエネルギーストレージ、データセンター、家庭用マイクロインバーター、通信基地局、自動車などに適用範囲を拡大している。EUの厳しいエネルギー効率要件と中国のデータセンター増設計画を背景に、データセンター用電源ならびにサーバメーカーはGaN技術の重要性を明確に把握していることから、GaNパワーコンポーネントは、2023年に注目を集める可能性が高い。
新世代DRAMの登場とさらなる多層化が進むNAND
DRAM市場は、サーバの出荷先がデータセンターに集中するようになったこともあり、CXL仕様のモジュールに注目が集まっている。RDIMMのスロット数は限られているため、CXLの活用でシステムで使用できるDRAM容量を増やしながら、性能も向上させることが可能になるためで、2023年には、IntelのSapphire RapidsやAMDのGenoaなどのサーバCPUがCXL 1.0をサポートするだけでなく、DRAMモジュールもDDR5に対応するようになる。さらに、AIおよびML(機械学習)の性能向上に向け、サーバGPUも新世代のHBM3仕様への対応が進むことになる。
一方のNANDに関しては、2023年にはサプライヤ4社ともに200層以上を実現するものと予想される。一部のサプライヤでは、将来のサーバHDDの置き換えを狙ってPLC(Penta Level Cell)の大量生産も行うかもしれない。SSD のインタフェースに関しては、Sapphire RapidsならびにGenoaでPCIe 5.0がサポートされることで、信号速度が32GT/sとなり、高速コンピューティングのニーズに活用されるようになる。
自動車の高度知能化により車載用MLCCの開発が加速
現在、自動運転機能や先進運転支援システム(ADAS)は新車の標準機能になりつつある。自動運転レベル1/レベル2が主要ではあるが、それでも約1,800~2,200個の車載向けMLCC(積層セラミックコンデンサ)が利用される。
2023年以降は、ADAS向けMCUやセンサICなどがますます成熟していき、レベル3のシステムが高級車モデルを中心に普及が進み、MLCCの消費も3,000~3,500個に増加する見込みである。
またEVの電力システムは、充放電効率と電力回収の最適化だけでなく、バッテリ寿命の改善ニーズに対応することを目的として、さまざまな自動車メーカーの主要な研究開発の優先事項の1つになっている。中でもインバーター、バッテリー管理システム、およびDC電力コンバーターは、車両を構成する重要なサブシステムであり、約2,000~2,500個の大容量車載MLCCを利用しており、村田製作所が2022年初頭に高静電容量および高電圧1206サイズの車載MLCCの量産を始めたほか、TDK、太陽誘電、Samsung、Yageoなども市場参入を進めている。