「まぜて、こえて、つくりだそう」をテーマに科学技術振興機構(JST)が主催する国内最大級の科学イベント「サイエンスアゴラ2022」は4日、東京・お台場のテレコムセンターで多彩な企画が始まった。アゴラは17回目を数えるが、2020年と21年はコロナ禍でオンライン企画だけだったため、実地開催は3年ぶり。6日までの3日間、市民、学生や科学者らが集う。未来に向けた社会の期待や要請を明らかにすることなどを目指し、対話を重ね、交流を深める。これに先立ち、オンラインの企画が1日まで開かれ、コロナ関連などで活発な議論が繰り広げられた。
「顔と顔を突き合わせられる」期待に沸く会場
実地会場の中心は「アゴラステージ」で、3年ぶりの今回も吹き抜け構造のテレコムセンター1階に特設された。初日の4日は午後零時半から「サイエンスアゴラ2022見どころ紹介」が行われた。
アゴラはプレ企画を含めると140を超える多彩な企画が展開する。このため、どれに参加するか悩む人のために、今年の企画の全体像や「おすすめ企画」などを「サイエンスアゴラ推進委員会」のメンバーが紹介する場だ。
ステージには11人の委員のうち6人が並んだ。芝浦工業大学工学部教授の新熊亮一さんらは今年のテーマが決まるまでの活発なやり取りや、応募企画の中から140余りを選ぶ審査の苦労話、3年ぶりの実地開催への熱い思いなどを紹介した。
主催者側を代表する委員で、JST「科学と社会」推進部長の荒川敦史さんは「過去2年のオンライン開催の良さもあったが、こうして実地で顔と顔を突き合わせられるアゴラが始まって、わくわくしている。色々な企画があるのでそれぞれ楽しんでほしい」などと話した。
この後、ステージでは「多くの子どもたちに科学に関心を持ってもらい、将来の日本を支える科学者・技術者になってほしい」との思いを込めて企画された「技術の力で心を震わす理科教室を!」や、多忙な現代社会のより良い睡眠や休み方を探る「睡眠に目覚めよ!―睡眠と社会の未来を考える」が行われた。
あすからブース対話、さらに盛り上がり
5日からはテレコムセンター3~5階で展示企画も展開する。展示ブースは参加型企画が多く、それぞれ科学の幅広い分野のテーマごとに出展組織の担当者が来場者とそれぞれの企画内容を説明しながら対話、交流する。
各階にミニステージも設けられ、「思い描いてみよう!未来のじぶんの一日」(5日午前10時半、3階)、「モバイル顕微鏡でミクロ世界からSDGsに取り組もう」(5日午後2時半、3階)、「ゲームで創る、AIとともに生きる未来ストーリー」(6日午前10時半、3階)、「みんなでコロナと戦うために~学びあいと分かち合い」(6日午後2時半、4階)など、親子でも楽しめる30近い参加型企画が1時間半単位で行われる。
JSTの企画担当者によると、今年のテーマ「まぜて、こえて、つくりだそう」には、サイエンスアゴラという「広場」に集まった「さまざまな人々の知恵を混ぜて、今ある枠組みや思い込みを超えて、より良い未来をつくることに挑戦する」という思いが込められている。
実地開催の期間中、1階のアゴラステージ横には「ご意見募集ボード」が設置される。このボードで参加者から科学技術に対する率直な意見や疑問などを集め、出展企画内容とともに分析して、科学技術に対する期待や不安、未来社会への要請などを明らかにすることにも挑戦する。
コロナ情報…社会はリスクにどう向き合うか
「サイエンスアゴラ2022」は既に10月2、20~22日と11月1日にオンラインで学生、市民、科学者、政策立案者ら、さまざまな人々が参加できる30の多様なセッション企画が行われた。
ファシリテーション(会合の効果的な進行)、環境カフェなど、さまざまな対話の技法がある中で、より良いあり方を探る「対話の『場』を科学するー参加型『対話ガイドライン』」(10月20日)、「分子で世界を変える!みんなで作る未来の研究テーマ」(22日)など、識者らからなる推薦委員会が選んだ注目企画のほか、今年も世界が向き合った新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を取り上げる企画が関心を呼んだ。
10月20日には、コロナ禍の当初に交錯したさまざまな情報やコミュニケーションを振り返り、混乱をなくし、より適切な行動を選択できるためのリスクコミュニケーションの在り方などを探る「新型コロナのミス&ディスコミュニケーション」があった。
サイエンスライターの堀川晃菜さんが進行役を務め、元キャスターで白鴎大学特任教授の下村健一さんや、厚生労働省に対策を助言する専門家組織メンバーも務める早稲田大学政治経済学術院教授の田中幹人さんら、メディア論、ジャーナリズム論の専門家らがオンラインで登壇し、意見や見解を交わした。
この中で、感染拡大防止策として密集、密接、密閉の「3密」を避けるという政策提案に関わったという田中さんは「リスクコミュニケ-ションが難しいのは、エビデンスが出揃った時は手遅れになることにある。『3密』はとてもシンプルなメッセージだったが、提案された当時は、エアロゾル感染に関するエビデンスが十分に出されていない段階だった。しかし結果的に海外でも評価された」と述べた。
さらに「エビデンス的に怪しいと批判することは可能だが、(未知の問題に直面する時は)結果的に(想定を)外してしまい、批判を受けるリスクを許容する社会にならないとリスク対策はうまくいかない」と指摘している。
下村さんは情報の「送り手」と「受け手」の両方を体験したコミュニケーションの専門家だ。「科学者にとっては科学的か非科学的の2つしかない。まだ分からないこと、これから分かること、いわば『未科学的』なことがあるということを知ることが大切だ」と述べた。「白か黒かでなく、どっちか分からない方がリアルな状態だということがある」と学生に教えると「情報を受け取るのが楽になった」と言われたという。
ワクチン企業「今後の変異株に対応できる体制」強調
1日には前夜祭企画として、COVID-19のワクチンとして世界中の人々に接種されたメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン技術の成果と可能性について、米バイオ企業モデルナで研究開発統括責任者(CSO)を務めるメリッサ・ムーア氏が「Moderna Meets Mirai」と題して講演した。
mRNAはDNAに書き込まれた遺伝情報をもとにタンパク質が合成される際の中間体として働く。mRNAワクチンはmRNAのこの性質を利用し、ウイルス表面にあるスパイクタンパク質の“設計図”を体内に注入し、細胞内のリボソームにタンパク質を作らせる。免疫の働きでスパイクタンパク質に対する抗体が多くできる仕組みだ。
ムーア氏は、モデルナはCOVID-19が世界で拡大する前にこのウイルスに対応できるmRNAワクチン技術を既に確立していたことや、米国立衛生研究所(NIH)と協力してワクチンを速やかに供給する体制をつくったことなどを紹介した。
また、mRNAワクチンは人工知能(AI)技術も活用することにより、ウイルス感染症だけでなく、さまざまながんや心疾患の治療薬など、幅広い医薬品開発に応用できる、などと述べた。また、今後も予想される新たな変異株に対しても常に対応できる体制を用意している、と強調した。
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