東京工業大学(東工大)は11月2日、再生可能エネルギーと水の電気分解で生成した水素を用いる、温和な条件下での「グリーンアンモニア合成」に求められる高い耐水性を有する、貴金属フリーの新触媒を実現したと発表した。

同成果は、東工大 元素戦略MDX研究センターの細野秀雄栄誉教授、同・魯楊帆特任助教(現・重慶大学准教授)、同・北野政明准教授らの研究チームによるもの。詳細は、独国化学会の刊行する機関学術誌の国際版「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。

アンモニア(NH3)は窒素肥料や化成品の原料として不可欠なほか、水素を高濃度で含有し、しかも常温下でも9気圧程度の圧力で液化することから、水素の貯蔵や運搬に好適であり、水素社会の実現の鍵を握る物質として期待されている。

しかし、現在主流となっている、窒素と水素からNH3を高温・高圧下で合成するハーバー・ボッシュ法は、多大なエネルギーを消費し、なおかつCO2も多量に排出するため、近年は再生可能エネルギーと水の電気分解で生成した水素を用いて、低温・低圧の温和な条件下で合成する「グリーンアンモニア」の研究が世界的に活発化している。

しかし、強固な窒素-窒素の三重結合を解離するには、大きなエネルギーの障壁を超えなければならないため、優れた触媒が必要とされている。これまでは、低温・低圧化に有効な触媒としてルテニウムが広く用いられてきたが、同金属は希少金属の一種であり、それに代わる有効な触媒が求められている。

そうした中、研究チームは2020年に、窒化ランタン(LaN)や窒化セリウム(CeN)といった窒化物の表面に高濃度に生成する窒素の空孔で窒素分子の活性化が行われ、担持した金属は解離の容易な水素の活性化のみを担うという発想で、これまで低活性だったニッケルを用いてルテニウムに匹敵する触媒活性を示すことを報告していたという。

しかし、これらの窒化物は湿気に対して敏感であり、通常の雰囲気では触媒の調製が難しいという課題があった。この課題は、同物質のみならず、近年報告されている温和な条件下のアンモニア合成で活性の高い触媒に共通するものであり、実際の応用に向けて解決する必要があったという。

そこで研究チームは今回、LaNの代わりの担体として、La3AlNという逆ペロブスカイト構造の物質を用い、その表面にニッケルまたはコバルトを担持してみることにしたという。La3AlNは、LaNと違って水分に対して安定なので、空気中での扱いが可能なほか、アンモニア合成の触媒活性(生成速度、活性化エネルギー、反応次数など)や窒素の同位体効果は、LaNと大差がなく、LaNと同様に窒素空孔で窒素分子が活性化されていると考えられたためだという。

  • LaNとLa3AlNの結晶構造

    (a)LaNとLa3AlNの結晶構造。(b)両者を空気にさらした後の変化。LaNは速やかに水分と反応してLa(OH)3に変化してしまうが、La3AlNでは変化が見られない (出所:東工大プレスリリースPDF)