EYストラテジー・アンド・コンサルティング(EYSC)は11月2日、オンラインでメディアブリーフィングを開き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で変化した観光客の行動分析や新たに政府が開始した全国旅行支援、水際対策の緩和による訪日外国人のインバウンドにより期待される観光需要の復活に関する分析を発表した。
同分析は、各種公開情報や報道資料、また同社が今年6月に国内在住20代~60代の男女4000人を対象に実施したオンライン調査およびソーシャルリスニングをもとにまとめたものとなる。
コロナ禍における観光客の行動、消費
冒頭、EYストラテジー・アンド・コンサルティング ストラテジックインパクト パートナーの平林知高氏は「足元における観光需要の動向は、2019年比で中東は回復しており、欧州、アフリカ、米国も80%程度の水準まで回復しているが、水際対策の遅れたアジアは20%程度の水準となっている」と述べた。
日本国内におけるコロナ禍の観光客の行動は、日本国内ではリスク感応度ごとに旅行の回数では、コロナ禍においてはリスクを許容する人ほど平均旅行回数は多くなる傾向となり、コロナ禍前に比べると比較的顕著になっている。
また、コロナ禍前でもリスク回避的な人ほどマイクロツーリズムを好む傾向にあったが、コロナ禍においては顕著となり、感染リスクへの行動の表れであることが示唆されている。コロナ禍では自県を含めた周辺自治体へのマイクロツーリズムの割合が増加し、東京・大阪など大都市圏への旅行は控えられていたものの、大阪についてはコロナ禍前の水準に戻る気配があるという。
観光客の消費については、旅行回数自体は宿泊・日帰り旅行ともに減少傾向ではあるものの、単価については日帰り旅行のみコロナ禍前の水準に回復。さらに、宿泊旅行は宿泊費以外が減少し、平均消費単価を引き下げている半面、日帰り旅行は交通費や現地消費がコロナ禍前の水準を維持し、結果的に平均消費単価の水準を維持しているという結果になった。
交通費の内訳推移は、宿泊・日帰り旅行ともに公共交通機関の利用が減少し、自動車利用が増加したが、日帰りは減少分を保管した結果、コロナ禍前の水準を維持。現地消費の内訳は買い物・娯楽サービスが減少し、買い物代だけに着目すると土産代への消費が減少しているという。
コロナ禍における観光への関心については、SNSは感染状況と反比例する形で旅行トピックの検索が増加しているほか、海外旅行はコロナ禍以降は減少傾向にある。旅行への注目度と旅行支援への注目度では、全国を対象としたGo TOトラベル期間は注目度が高いが停止後は減少し、全国を対象とした支援への注目度は高いことが伺える。
全国を対象とした旅行支援策が再開された場合、リスク許容者ほど旅行する傾向にあり、全体としては16%ほどの旅行意欲の押し上げ効果が期待されている。
インバウンド回復に期待
一方、インバウンド需要の取り込みと今後への期待として、日本への関心はコロナ禍前後で大きく変化していないが、訪日意欲に関してはコロナ禍後に減少したものの、直近では回復傾向にあり、水際対策の緩和で期待が高まるという。
いち早く本格的な水際対策緩和を行った欧州への訪問観光客の推移では1年で8割程度まで回復しており、日本でも2023年秋ごろには同程度の水準に回復することが見込まれている。
先行して水際対策緩和を行ったシンガポールやタイへの訪問観光客推移では、緩和直後でも回復効果が35%程度となっている。また、消費については円安傾向となっている現状では、2019年と比べて訪日外国人の観光消費単価の上昇が予想されている。
最後に平林氏は「コロナ禍で観光関連産業はデジタルとサステナビリティの重要性が加速し、観光DX(デジタルトランスフォーメーション)に向けて地域のデータを集め、可視化し、次のビジネスにつなげることが重要となり、ツーリズム関連事業だけでなく地域のあらゆる産業の合意形成、意思決定が求められる。また、マイクロツーリズムは日常のツーリズム化のトレンドを表しており、観光資源がなくても地域の魅力を伝えるべきだ。そして、人材不足もあることからデジタル化による生産性の向上を通じて賃金の上昇につなげ、地域と向き合い、発展していく術を考えなくてはならない」と締めくくった。