ここ数年、環境、サステナビリティ、ガバナンス(ESG)の取り組みに関して、企業は具体的な取り組みと進捗を示すことが求められています。さらに、消費者からの関心も高まっており、活動の開示も求められています。しかし、多くはESG計画の策定と実行、成果の追跡と測定に苦労しているのが現状です。
2022年4月にオラクルが共同で行ったサステナビリティに関する世界的な調査「No Planet B」において、89%の消費者は、企業のESGへの取り組みについて宣言だけでなく、実際の行動や成果を開示する必要があると回答しています。
さらに、96%の経営者がサステナビリティの取り組みを進めたいと回答しています。しかし、一方で80%の消費者は、取り組みの進展が見られないと、現状を不満に思っています。経営者の多くはESGの取り組みを加速する必要性を感じていますが、どこから手を付ければよいのかと悩んでいるという現実があります。
筆者は最近、Harvard Professional DevelopmentのCIOアドバイザー兼インストラクターで、「No Planet B」調査の共著者であるパメラ・ラッカー (Pamela Rucker) 氏と連絡を取り、経営者がどうすればESG推進に向けて行動に移せるかについて議論しました。以下、ラッカー氏との会話のポイントを紹介しましょう。
ESGを進める上でのファーストステップ
ラッカー氏: ESGの目標を達成するための最初のステップは、ESGに関して定期的に議論する場を確保することです。経営者は、各部門のリーダーで構成される「ESG推進組織」を設立し、少なくとも四半期ごとにディスカッションを行うべきです。
この「ESG推進組織」は、企業のESGへの取り組みに関しての説明責任を果たすとともに、結果を出せるリーダーをビジネスの各部門から確保するためのものでもあります。どんなに良い戦略を持っていても、リーダークラスのコミットメントがなければ、目標の優先順位が低くなってしまうことが極めてよく起こります。
社員の意識をESGに向けさせる
ラッカー氏: ミレニアル世代とZ世代は、経済的なメリットと自分の価値観に基づいて就職先を選びます。経営者はESGを重要な取り組みとし、サステナブルな企業文化を経営のバックボーンに据えるべきです。そのためには、以下のようことを実践する必要があります。
- ESGが個人にどのような影響を与えるかについて、従業員や顧客と真剣に会話する
- 経営目標への賛同を得るために、ESGのコーチやスポンサーが従業員に働きかける
- ESG戦略の改善方法について、従業員や顧客からもアイデアを集める
- 経営者のESGへの取り組みの重要性とコミットメントを社内外に発信する
- コミットしたことを実行したという事実をきちんとフィードバックする
達成可能な目標を設定する
ラッカー氏: 経営者は、現実的な目標とベンチマークを設定する必要があります。これは具体的で測定可能なものとし、そして達成することが可能なものでなければなりません。各部門のリーダーは、まず初年度の目標を達成可能なものに設定し、早期に成果を挙げることが大事です。目標の例としては、以下のようなものが考えられます。
- 炭素排出量をネットゼロにするための実施戦略の策定を1年目終了時までに行う
- 自社が直接所有または運営管理するスコープ1排出量を1年間で5%削減する取り組みを行う
- 従業員にとって意義深い取り組みを1年以内に実施する
- 事業利益の一部を、地球規模の環境改善に役立てる(利益の一部を環境改善の活動に投資する)
- サステナビリティと気候変動リスクの報告・開示のための効果的なガバナンス戦略を導入する
整流・集約された企業活動データを持つ
ラッカー氏: 調査対象となった経営者の91%が、サステナビリティとESGの取り組みを実施する上で大きな課題があると回答しています。主な課題として、「パートナーなど第三者からESG指標のデータを入手するのが困難」(35%)、「進捗を確認するためのデータが不足」(33%)、「ESGレポート作成の工数負荷」(32%)を挙げています。
企業全体を網羅する、整流・集約された活動のデータがなければ、全社での取り組みの進捗を正確に測定・追跡し、効率的にESGに向けた活動を促すことはほぼ不可能といえます。
ESGにまつわるデータは財務、人事、サプライチェーン、カスタマー・エクスペリエンス・アプリケーションなど、企業内外の多くのシステムから収集する必要があります。この収集されたデータに対し、AIなどの新しいテクノロジーを分析・解析エンジンに組み込むことで、これらのアウトプットはさらなる効率化と最適化をサポートします。
このように、企業は計画と実行を最適化し、進捗状況を正確に報告するために、すべてのシステム間でデータを接続、管理、標準化できるソリューションへの投資を検討する必要があるということです。
例えば、サプライチェーン業務と経理・財務業務のデータを同じプラットフォームで管理している企業は、コストと炭素排出量を削減する最も効率的なルートと輸送方法を見つけることができます。同時に、これらの連携されたシステムからは、GHGプロトコルのスコープ1、2、3の炭素排出量を迅速に報告できるため、物流業務の効率化がESG目標達成に及ぼした効果を示すことができます。
テクノロジーをESGに生かす
ラッカー氏: AIなどのテクノロジーは、ESGの取り組みを推進する上で大きな役割を果たすようになりました。実際、経営者の93%が、サステナビリティおよび社会問題への取り組みに関する意思決定のためのデータ収集と分析を、人よりもAIベースのテクノロジーに委ねたいと考えているという結果が出ています。
企業は、データ収集の自動化とAIを活用することで、複雑でさまざまなESGに関するデータをより適切に収集・統合できます。また、AIの活用により重要なシグナルを得るための工数と時間を短縮することができ、グローバル・サプライチェーンにおける競争力を高めて、サステナビリティに関する重要なインサイトを見出すことが可能になります。
この統合された仕組みにより、各部門のリーダーたちが進捗を確認して協力しながら、設定された目標を達成するための明確なアクションを行うことが容易になります。
透明性を高め、社内外への説明責任を果たす
ラッカー氏: 大規模な企業改革を実現するには、説明責任を果たすことが大事です。目標の透明性を高めることは、企業の現在の状況、目指すべき姿、そのための具体的なステップを明確にすることを意味します。透明性を高めることで、明確な責任が生じ、目標と結果のギャップを埋める努力できます。
たとえ目標が達成できなかったとしても、企業はステークホルダーや顧客に対してきちんと説明し、達成できなかったステップを反省し、何を変えるべきかを検討する必要があります。また、大きな節目を迎えた時は、共に成果をたたえあうことが大切です。このような達成感を味わうことで、さらにより良い結果を出そうとする意欲が湧いてきます。
どの企業もESGへの取り組みを推進する責務を負っています。「ESG推進組織」の設立、従業員の参加、明確な目標の設定、データの一元管理、先進テクノロジーの活用、透明性の向上など、経営者はESGを優先し、推進を加速することが重要です。
著者プロフィール
オラクル・コーポレーション サプライチェーン・マネジメント製品戦略担当
チーフ・サステナビリティ・オフィサー兼グループ・バイスプレジデント ジョン・チョーリー(Jon Chorley)
ジョン・チョーリーは、チーフ・サステナビリティ・オフィサーとして、環境サステナビリティに関連するすべてのイニシアチブを社内外で推進しています。
ITインフラや事業運営から、経営者報告やリスク管理までのあらゆる分野を統括しています。オラクルは、環境保護に役立つ製品の開発や実践に取り組んでいます。
対談者プロフィール
パメラ・ラッカー (Pamela Rucker) 氏
氏はHarvard Professional DevelopmentのCIOアドバイザー兼インストラクターです。25年以上にわたって、ビジネスの推進要因を理解し、最終損益を向上するためのソリューション開発においてエグゼクティブを支援してきました。実践的な経験を生かして、フォーチュン500の多くの経営者にエグゼクティブ向けの教育を提供しており、世界有数のブランドと主要な学術機関のリーダーを指導しています。