新世代の無線技術は、現行の4GとWi-Fiのソリューションより、高い周波数と広い帯域幅を使用することで、接続性を向上します。しかし、5GとWi-Fi 6の共存、そして5GHz以上の高周波を使用する必要性が、半導体メーカーに技術的な課題をもたらします。具体的には、帯域内の信号を分離するフィルタへの技術的な要求が挙げられます。
本稿では、高周波(RF)フィルタの仕組み、その重要性、半導体メーカーが携帯電話向けデバイスを製造する際に直面する課題、そしてその解決にLam Researchがどのように関わっているかを説明したいと思います。
周波数とフィルタ
振動は自然界の至るところに存在するため、その固有の帯域を特定して、聞きたくないものを除外し、聞きたいものを分離する必要があります。
フィルタは、私たちが関心を持たない周波数を弱める(理想的には取り除く)働きをします。例えば、音楽を聴くときには、高音域をカットして低音域を強調することができます。また、カメラでは、画質を向上させるために紫外線(UV)を除去します。
携帯電話の周波数帯域では、利用可能な幅広い周波数が複数のチャンネルに分割されているため、他のチャンネルで同時進行中の会話に干渉されることなく、会話をすることができます。しかしこれは、あるチャンネルを、その周波数帯域における、他の全ての周波数から分離できる場合にのみ機能します。
RFフィルタリングは、同時に存在する他の全てのチャンネルに対応しなくても、チャンネル内の特定の周波数を分離して、使用することを可能にするものです。
周波数のフィルタリングには、以下の4つの方法があります。
- 高周波を除去し、低周波のみを通過させる。
- 低周波を除去し、高周波のみを通過させる。
- 特定の周波数帯域を分離し、その帯域より高い周波数と低い周波数を全て除去する(この帯域を「バンド」と呼び、このようなフィルタを「バンドパス・フィルタ」と呼びます)。
- 特定の周波数帯域だけを除去し、他の周波数帯域はそのままにする(このようなフィルタを「バンドストップ・フィルタ」と呼びます)。
このように、RFフィルタは現代の携帯電話データシステムにおいて非常に重要なものです。各チャンネルがバンドにあたります。最近の携帯電話には60ものバンドパスフィルタが搭載されているものもあり、それぞれが単一のチャンネルを分離します。
携帯電話の2種類のフィルタ
携帯電話のフィルタは、大きく分けて2種類あります。1つは、フィルタの表面に沿って振動するもので、表面弾性波(SAW)フィルタと呼ばれます。製造コストを抑えられ、携帯電話の低周波数帯域で最も効果的です。
もう1つは、表面だけでなくマテリアル全体を振動させるタイプで、バルク弾性波(BAW)フィルタと呼ばれます。製造コストはやや高くなりますが、携帯電話の周波数帯域の高周波に対応できます。
RFフィルタの製造には多くの課題があります。デバイスの小型化は常に求められていますが、とりわけモバイルやIoTの分野では顕著です。そして、より高性能、かつ、より複雑なフィルタには高度な精度が要求されます。さらに、5Gで利用可能な高周波と広帯域の両方を活用するために、フィルタの構造や使用する材料が進化しています。
ここで、RFフィルタの製造において非常に重要な工程の1つを少し詳しく見ていきましょう。
高スループットなScドープ層の成膜とエッチング
最先端の開発者は、重要な窒化アルミニウム(AlN)層にスカンジウム(Sc)を添加することで、フィルタの帯域幅の拡大に取り組んでいます。これにより、AlN層の圧電特性が向上し、最終的なフィルタ性能も向上します。Lam Researchが先ごろ統合したオランダのSolmates社は、高いScドーピングレベルと膜特性を持つ窒化アルミニウムスカンジウム(AlScN)膜の成膜に注力しています。
Scを添加した材料はエッチングがはるかに困難になり、スループットに悪影響を及ぼします。また、エッチング加工は下部電極層に対して高い選択性を持ち、その層で止めなければいけません。下部電極へのエッチングはデバイスの歩留まりに悪影響を及ぼすためです。下部電極の厚みは、前世代のデバイスよりも薄くなっていくため、デバイスの歩留まりを悪化させる、下部電極への影響を与えることなく、均一なエッチングを実現することが課題となります。
Lam Researchのエッチングツール「Kiyoシリーズ」は、そうした課題を克服するために必要な、高いエッチングレートと選択性の両方を実現したモデルとなっています。直径200mmおよび300mmのウェハに対応し、量産に使用されているKiyoは、競争力のあるエッチングレートを維持しつつ、求められる加工形状を得るために必要な高いバイアスパワーを備えています。
フィルタはソリューションのごく一部
RFフィルタは、それらの新しいRFシステムの重要なコンポーネントの1つですが、唯一のものではありません。フィルタは、RFスイッチ、低雑音増幅器、電力増幅器、アンテナチューナーなどのデバイスと組み合わされ、複雑なRFモジュールソリューションを形成します。
こうした他のRFデバイスの多くは、RF-CMOSまたはRF-SOIの技術を使用して製造されていますが、コンデンサやインダクタ素子を後工程(BEOL)に統合できる、固有の製造スキームを有しています。これらの素子は、デバイスを高周波で効率的に動作させるために不可欠なものです。RFフィルタの製造における課題と同様に、これらのBEOL統合工程もまた、Lam Researchのプロセスツールに新たな課題をもたらしています。
高品質なMIMCAPの成膜
金属-絶縁体-金属キャパシタ(MIMCAP)は現在、一般的に、RFデバイスに組み込まれています。MIMCAPはその名のとおり、電気信号や電力を通す金属層と、金属層間を絶縁する誘電体層で構成されています。一般に窒化ケイ素が使用される誘電体層は、高品質で金属層との密着性に優れていることが求められます。
Lam Researchの「VECTOR Express」は、必要とされる高品質な成膜を実現します。そのマルチステーション連続成膜(MSSD)アーキテクチャが、ウェハ間の不均一性を抑制し、優れたウェハ面内均一性を維持します。
厚いパッシベーション層を低CoOで成膜
見落とされがちな課題は、最後の保護膜であるパッシベーション層に関するものです。デバイスを完全に封止し、環境から保護するためには、パッシベーション層が厚くなければなりません。割れやピンホールがあると、デバイスの性能に影響を及ぼします。そのため、望ましい封止性の確保に十分な厚さで成膜するためには何度もパスを繰り返す必要があり、スループットが大幅に低下し、保有コスト(CoO)が高くなります。
VECTOR Expressは、厚いシリコン酸化膜(USG)膜の成膜を高品質かつ高い生産性で実現します。MSSDアーキテクチャは、MIMCAPアプリケーションと同様に、ウェハ間の不均一性とピンホールのない、優れた成膜を可能にし、厚いパッシベーション層の実現に最適なツールと言えます。
著者プロフィール
David HaynesLam Research
Customer Support Business Group(CSBG)
Vice President of specialty technologies
Daniel Shin
Reliant Systems in Lam's Customer Support Business Group(CSBG)
Senior Customer technology manager
Lidia Vereen
Reliant Systems in Lam's Customer Support Business Group(CSBG)
Business Development director