国立天文台(NAOJ)は10月26日、金属3Dプリンタを用いて、アルマ望遠鏡バンド1受信機(観測周波数:35~50GHz)に搭載する部品「コルゲートホーン」の製作に成功したことを発表した。

同成果は、NAOJ アルマプロジェクトおよびNAOJ 先端技術センターによるもの。詳細は、30GHz~30THzの領域の赤外線・ミリメーター・テラヘルツ波を扱う学術誌「Journal of Infrared, Millimeter, and Terahertz Waves」に掲載された。

NOAJでは2015年ごろから、アルマプロジェクトと先端技術センターが連携して、3次元モデルデータに基づいて材料を積層・結合させることにより立体的に製品を生成する付加製造技術(AM:Additive Manufacturing)、いわゆる3Dプリンタによる部品製造を天文観測機器に応用することが検討されてきたという。

AMは現在、鉄道、自動車、航空機、医療機器などの実用部品として活用が進んでいる。AMでは材料の積層によりモデルを実体化させるため、切削加工に比べて設計の自由度があるほか、設計から実体化までの期間を従来の工法に比べて短くできることから、さまざまなメリットを享受することが期待されている。

天文観測機器の製造もまた、1つの望遠鏡に1つだけの装置という固有なケースが多く、また特殊な部品が必要になるため、AMが効果を発揮できる可能性のある分野とされている。

そこで今回は、当時プロトタイプの設計開発が進んでいたバンド1用部品を試作品として選定し、装置の販売代理店企業と相談をしながら、造形技術によって実際にできることできないこと、造形技術の利点欠点などの検証を進めてきたという。この初期検討を踏まえ、2019年に先端技術センターに金属3Dプリンタが導入され、実用品としてのコルゲートホーンの製作がスタートしたとする。

コルゲートホーンは、天体からの電磁波を受信機上で最初に受信し、後段に設置された検出器へ電磁波を集光する役目を果たす部品。最先端の電波天文受信機に使用するためには、アンテナビームパターンやその周波数特性など、同部品自体の性能が仕様を満たす必要があるほか、同部品が設置される低温かつ真空環境で問題なく機能するための金属材料物性の評価も重要だという。そのため、常温および低温での機械的強度、収縮率、熱伝導率、電気伝導率などの物理・電気特性を入念に調べ、その妥当性を確認する必要があったとする。これらの検証は、高エネルギー加速器研究機構、北陸先端科学技術大学院大学、NTTデータザムテクノロジーズなど、専門的知見を持つ大学や研究機関などの協力を得ながら進められたという。

また、コルゲートホーンとしての仕様を満たすために、造形時のさまざまなパラメータなどが工夫されたという。造形担当チームは、同部品の開発そのものと同時に、導入されたばかりの金属3Dプリンタとその周辺機器、専用ソフトウェアの操作など、新しく習得しなければいけないことが山積みだったことが困難であったとするが、最終的に、開発期間約2年を経て、従来の切削加工によるものと同等に使用できるコルゲートホーンを製作するに至ったとする。