分子科学研究所(分子研)、独・フリッツ・ハーバー研究所、大阪大学(阪大)の3者は10月26日、超短パルスレーザーを用いた超高速走査トンネル顕微鏡(STM)の最新技術を応用し、物質表面における電子や格子の量子ダイナミクスをフェムト秒(fs)・ナノメートル(nm)のオーダーで直接観察する手法を開発することに成功し、これによって原子スケールの厚みを持つ酸化物超薄膜における格子振動の量子ダイナミクスを観測したと発表した。
同成果は、分子研 メゾスコピック計測研究センターの熊谷崇准教授、阪大 工学研究科 物理学専攻の濵田幾太郎准教授に加え、独・フリッツ・ハーバー研究所の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会が刊行する「Science」系のオープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。
物質の成り立ちを知る上で、原子核や電子の構造やダイナミクス(運動)を直接観測することは重要だが、その構造とダイナミクスの時空間スケールはナノメートルやフェムト秒以下という極微の世界である一方、半導体プロセスに代表されるナノテク関連では、こうした極限的な時空間スケールに到達しようとしており、そうした極微の世界を直接観察できる計測手法の重要性が増してきているという。
そこで研究チームは今回、光走査トンネル顕微鏡、量子プラズモニクス、超短パルスレーザーという3つの技術を融合させることで、極限的な時空間分解能を持つ計測手法の開発を試みることに挑戦。その結果、物質表面における原子核や電子の量子ダイナミクスをフェムト秒、ナノメートルオーダーの分解能で観察することが実現されたとする。
今回の研究ではこの新しい先端計測が応用され、原子スケールの厚みを持つ酸化物超薄膜において、量子論的な格子振動を実時間で直接観測する「コヒーレント振動分光」が可能であることが示されたとするほか、物質の物性を決める重要な物理パラメータである電子状態を、原子スケールの空間分解能で観察できる走査トンネル分光と組み合わせることによって、電子状態と格子の量子ダイナミクスとの間にあるミクロな相関を可視化することにも成功したともしている。
なお、研究チームでは、今回の成果は、半導体の微細加工のような極微な世界における量子構造とダイナミクスの理解と制御に向けた基礎研究となり、今後のさらなる応用が期待されるとしている。