TSMCが、中国の新興ファブレスICメーカーのBiren Technology(壁仞科技)から製造受託していたAI半導体チップの生産を停止したと米国、香港、台湾の複数メディアが報じている。

TSMCは、Biren Technologyの製品が米商務省産業安全保障局の規制対象になるかどうかについて結論に達していないが、法律を厳格に遵守する立場から、慎重を期して当面の供給を停止することを決めた模様である。ただし、TSMCからは、これまで同様、顧客との取引に関するためコメントは出ていない。

Biren Technologyは、これまで自社のAIチップについて、米国の規制の範囲外にあるとして主張してきた。なぜ、規制の対象がかくも曖昧模糊として受け取られているのか考察してみてみたい。

これまでも規制対象とされてきたNVIDIAとAMDの先進AIチップ

10月7日に米国商務省産業安全保障局が発表した半導体チップおよびコンピュータ製品に関する対中輸出規制対象は「certain advanced and high-performance computing chips and computer commodities containing such chips(特定の先端高性能コンピューティングチップとそれらを搭載したコンピュータ製品)」とされている。

ここで言っている特定とは何を指すのだろうか。NVIDIAは8月末、同社の先進AIチップである「A100」および「H100」の中国への輸出を事実上禁止する旨の書簡を商務省から受け取ったと発表している。一方のAMDの先端AIチップ「M1250」も同様の扱いを受けることになったことが明らかになった。商務省産業安全保安局は、これらの報道に対して各企業の個別の事柄にはコメントしないとしてきたが、10月7日になって初めて、これらの先端AIチップの輸出規制を明文化し公知した。

中国本土にあるロジック半導体メーカーに対して事実上輸出禁止となる半導体製造装置や部材に関しては、「Logic chips with non-planar transistor architectures (I.e., FinFET or GAAFET) of 16nm or 14nm, or below」として、16/14nmプロセス以下のFin FETやGAAFETなどの非プレナートランジスタ構造のロジックチップを製造するために使用されるものとされているが、半導体チップについては規制対象が特定の製品としか記されておらず、16nm以下のプロセスで製造された米国製半導体チップすべてが禁輸になったとの誤解が一部にみられるが、もしそうなれば、米国の半導体サプライヤの多くが、最大市場である中国での売り上げをほぼ失うことになり、事業そのものが窮地に追いやられることになってしまう。