半導体メーカーにとって、業界をリードするテクノロジーをいち早く市場に投入することは千金に値するだろう。マーケットシェア、売上、利益に直結するだけでなく、量産化が早く実現するほどファブ投資の回収が早まり、リターンが大きくなるからだ。考えてみると、最先端ロジックファブを新設する場合、ウェーハ投入10万枚規模のもので200億ドル以上の製造装置が必要となる。最先端メモリのファブも、同等規模で100億ドル弱を要する。減価償却サイクルを5年とすると、減価償却費だけで1日当たり500万ドルから1,000万ドルになる計算だ。

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Applied Materials(AMAT:アプライド マテリアルズ)には、新しいプロセスノードの迅速な量産立ち上げと、その後のウェーハ生産量の最大化とともに、最高レベルの歩留まりを維持してコスト最適化を図る業務を担当する顧客に対するサポートグループがある。「アプライドグローバルサービス(AGS)」だ。AMATでは、このサービス事業について詳しく紹介するMaster Classを9月22日に開催した。

プロセスノードと装置オーナーシップのライフサイクル全体にわたってAGSが顧客に価値を提供する各種の手法について、私と同僚数人が論じ、サービス事業全体に占めるサブスクリプションの割合が迅速かつ着実に増えていることを解説したほか、サービス事業により、ビジネスサイクル全体にわたってAMATがさらにレジリエントな(回復力のある)企業となっているかにも触れる。

半導体メーカー各社は、PPACt(消費電力、性能、面積あたりコスト、市場投入までの期間)の最適化を急ぐ中で、AGSとの関わりを増やし成果を向上させ、装置投資のリターンを高めようと図っている。その手段の1つが長期サブスクリプション契約だ。AMATは広範なサービスを提供しており、顧客のほぼあらゆるニーズに応えることができる。

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サブスクリプション契約の利点の1つに、独自の装置データ解析が挙げられる。これは客先に設置されている装置パフォーマンスと業界トップレベルのパフォーマンスを比較可能にするもので、歩留まり、生産量、コストについて改善の余地を見いだす手がかりとなる。

AMATは約42,500台の先進的装置を設置した世界最大のインストールベース実績を持ち、データや分析力をさらに駆使して自社装置から最高のパフォーマンスを引き出す方法を得ている。さらに、独自技術を使ってメンテナンスを行うべき時期を予見し、不測のダウンタイムを減少させている。

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第2の利点として、サブスクリプション顧客だけに提供しているサプライチェーン保証と呼ばれるサービスである。これが特に威力を発揮したのは、コロナ禍で業界サプライチェーンがひっ迫した時期だ。パンデミックの最中にも、パーツサブスクリプション顧客はこのサービスを利用して、オンタイムデリバリー率99%以上という高い数字を確保することができた。

サブスクリプション顧客に提供するもう1つの利点は、装置やファブに関する深い知識を持ったAMATのエンジニアと、現場およびリモートで連携がとれることだ。

AMATのエキスパートは、安全なリモート接続を通じて顧客のシステムやデータにアクセスし、迅速に診断を行って解決を図ることができる。コロナ禍の隔離措置においてエンジニアの移動がままならない時期にも、世界トップクラスのエキスパートがリモートで診断できるので、遅滞ない対処が可能となる。特にパンデミックの時にはオンサイトにエンジニアを派遣する場合に発生する隔離による遅延をなくすことができるため、特に重要となる。

AMATは世界1,000カ所以上で顧客のサポートに携わり、最初の研究開発用ツールの搬入から量産工程の最適化まで、あらゆる段階に関与している。Master Classでも説明しているが、AMATは顧客のファブネットワーク拡張においても緊密に協力し、工場設置計画、人的資本の配備、デジタルモニタリング導入、在庫管理などを支援している。こうした新しいタイプの活動は、顧客のプロジェクト迅速化、実行リスクの低減、必要な運転資本の軽減、成果の拡大などにつながる。

顧客に対して高まる価値を提供することにより、AGSはAMATにとって大部分が継続収益の成長事業となった。2013年以降、AMATはサービス事業の重点を都度取引からサブスクリプションサービスにシフトする戦略をとっている。

現在、AMATはパーツ、サービス、ソフトウェアの継続的な売上の約60%を長期のサブスクリプション契約から得ており、これによりサービス部門の売上高の年平均成長率は2013年以前の2%未満から12%へと加速的に伸びている。AGSの営業利益率は2013年には22%弱だったが、現在では30%を超えている。さらにサービス事業のTAM(獲得可能な最大市場規模)は、年間145億ドル強に達している。

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AGSがAMATの着実な成長の原動力となった主因の1つは、パーツ、サービス、ソフトウェアの継続的売上がグループ売上高の大半を占めていることにある。その割合はAGS売上の87%に上り、設備拡張よりもウェーハ投入量やファブ稼働率との関連性が高いことが特長だ。すなわち、半導体前工程製造装置(WFE)投資が鈍化する時期を迎えても、このサービス事業は成長を継続できることになる。たとえば2019年には、メモリへの投資が減少した影響でWFEの売上高は約8%低下したが、AGSの売上高はサブスクリプション事業が伸びたため落ち込んでいない。 このことからも分かるとおり、AMATがビジネスサイクル全体にわたってさらにレジリエントな企業となるためにAGSが果たす役割は大きいといえよう。

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本記事はApplied Materialsが発行している英文ブログをアプライド マテリアルズ ジャパンが翻訳したものを一部修正して掲載しております。

著者プロフィール

Jeremy Read
Applied Materials
コーポレートバイスプレジデント、アプライド グローバル サービス

アプライド グローバル サービス(AGS)のマーケティングおよびビジネスディベロップメント責任者。顧客の歩留まり改善を支える付加価値サービスの開発に取り組んでいる。1998年にAMATの子会社Consiliumの北米・欧州セールス担当ディレクターとして入社。Brooks Softwareの買収を成功させたほか、AGSの革新的なソフトウェア戦略を推進してAMATのデジタルツールの基礎を築いた