凸版印刷と国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は10月24日、量子コンピュータでも解読が困難な耐量子計算機暗号(PQC)を搭載したICカード「PQC CARD」を世界で初めて開発したと発表した。「PQC CARD」をNICTが運用するテストベッド「保健医療用の長期セキュアデータ保管・交換システム」における医療従事者のICカード認証と電子カルテデータへのアクセス制御に適用し、その有効性の検証に成功したという。

  • 「PQC CARD」

今回の実証実験は、同カードを用いたH-LINCOSにおける医療従事者の認証、アクセス制御などの基本動作確認と技術的課題の抽出という目的のために2022年8月から10月まで実施された。具体的には、同カードを医療従事者が持つ資格証明書であるHPKIカード(保健医療用公開鍵認証カード)に見立て、ICカード認証と顔による生体認証を組み合わせることで、電子カルテを閲覧する際の多要素認証を実施。また、電子カルテを閲覧するブラウザとサーバ間の通信に用いるPQCをアップデートし、動作検証の実証も行った。

成果としては、正しい権限をもった者のみが、その権限に応じた電子カルテ情報にアクセスできること、また、同カードを用いることで、H-LINCOS全体の耐量子性の向上とその有効性、実導入に対する課題を確認することができたという。

  • 「PQC CARD」を用いたH-LINCOSでのアクセス制御の構成

同カードには、「世界で初めてNIST選定PQC『CRYSTALS-Dilithium』をICカードに実装」「利用者側での変更はなく、従来の利便性を保持」という2つの特徴がある。後者については、「PQC CARD」のリーダライタや通信プロトコルなどは、現行暗号方式を実装した既存ICカード利用時から変更することなく使用でき、また、認証スピードなどのパフォーマンスも良好で、従来同様に利用可能だという。

凸版印刷は、同カードと関連システムに関し、2025年には医療や金融などの用途で限定的な実用化を行い、2030年に本格的な提供開始を目指す。