メイドロボットによる給仕実験が10月7日、秋葉原のカフェ・トリオンプでプレスに公開された。このメイドロボット「ましろ」は、ロボットエンジニアのA_say氏が個人で開発しているもの。総務省の「異能vation」プログラムに採択されており、今回の実験は、その1年間の開発成果を評価するために行われた。
A_say氏は、「アニメから抜け出てきたような個性豊かなメイドロボット達によるカフェを作る」ことを目的に、2018年2月、MaSiRoプロジェクトをスタート。同氏は現在、本職のロボットエンジニアではあるが、仕事とは無関係に、あくまで個人のプロジェクトとして、自宅で開発を続けてきた。
ましろはまず、手を繋ぐと一緒に付いてきてくれるロボットとして誕生した。当初、ボディは段ボール製だったものの、徐々に進化。現在のバージョンでは、液晶の目まで搭載している。ここはA_say氏が最もこだわったポイントの1つ。瞳が動くと、何を見ているか分かりやすく、生きているような存在感も得られるという。
移動機構には車輪を採用した。2足歩行の方がより人間らしくはなるだろうが、個人でやるには難易度が高すぎる上、不安定という本質的な弱点がある。車輪であれば簡単だし、移動速度にも優れる。車輪自体はロングスカートで隠せるため、外観上の違和感はあまり無い。
また、現在は喋るロボットも多いが、ましろは仕草や目線による非言語コミュニケーションで人間に接する。現在のAIにはまだ自然な会話は難しく、実装しても、期待と実際のギャップから、ユーザーのストレスが増えがち。いわゆる“中の人”を使う手もあるが、担当する人が代わってしまえば、キャラクターまで失われてしまう。
A_say氏は、「アニメには最終回があるが、終わらない物語を作りたい」という。その場として考えたのが、人間の役に立ち、必要とされ続けるメイドロボカフェだ。カフェのような決まった空間なら、治具や外部センサーを準備できるし、仕事の内容もほぼ決められるため、タスクとして実装しやすいというメリットがある。
2021年11月、同プロジェクトは、失敗を恐れず挑戦し、破壊的な価値創造を目指す異能vationに採択。テーマは「本物の美少女型ロボットとふれあえるメイドロボカフェ プロトタイプの実現」で、この1年、手繋ぎロボットだったましろを、給仕ができるメイドロボットにするべく、アップデートを重ねてきた。
今回の実験は、その成果を評価するために行った。7日~9日の3日間、事前に応募した102名が客として来店。メイドロボットによる給仕サービスを体験した。一般客の前に実施されたプレス公開では、一部うまく動かないところもあったものの、最終日まで「一度もドリンクをこぼす事なく無事終了した」(同氏)という。
店内は全9席で、走行スペースが広く確保されている。ましろは足元にLIDARを搭載しており、事前に店内のマップを作成。自己位置を推定しながら、走行することが可能だ。頭の上にはデプスカメラがあり、顔や物体を認識。肘ブレーキ付きの7軸ロボットアームを使い、軽い物を運ぶことができる。全モーター数は29軸だ。
今回の実験で、客が体験する流れは以下の通り。ましろを呼ぶIoTハンドベルは、加速度センサーを内蔵しており、鳴らす動きを検知。ワイヤレス通信で席番号を送り、そこにましろが向かうという仕組みだ。
- メニューの中から注文するドリンクを決める
- ベルを鳴らしてましろを呼ぶ
- ましろの手に注文カードを渡す
- ドリンクができるのを待つ
- ましろが運んできたドリンクを受け取る
まだ動きにややぎこちないところは残るものの、個人のプロジェクトでもここまで実現できるというのは驚き。今回、実現したのはメイドロボカフェのプロトタイプであるが、A_say氏によれば、3~4年後くらいには、ちゃんとした店舗も実現したいとのことだ。