アクセルスペースは10月13日、100kg級の小型衛星「Pyxis」(ピクシス)を発表、2024年第1四半期に打ち上げる予定であることを明らかにした。これは、4月に発表した新サービス「AxelLiner」の実証衛星として開発されるもの。アライアンスによる小型衛星の量産体制を構築し、将来的には年産50機を目指すという。
AxelLinerの狙いは何か
同社は、日本における小型衛星のパイオニアとして、2008年に創業。2013年にウェザーニューズの海氷観測衛星「WNISAT-1」を打ち上げたのを皮切りに、これまでに9機の衛星を開発・運用してきた実績がある。
WNISAT-1は、民間による世界初の商用超小型衛星として話題になった。超小型衛星であれば、従来の大きな衛星にくらべ、桁違いの低コストで開発できるため、参入しやすい。これまで宇宙に関わってこなかった様々な企業が“マイ衛星”を所有するようになり、市場が活性化するのではないか、と期待された。
しかし、専用衛星のビジネスは、期待通りには進まなかった。たしかに小型衛星は世界的に市場が急拡大し、今後も発展が予想されているものの、それはSpaceXの「Starlink」やOneWebのような大規模なコンステレーションが中心で、プレイヤーは限定的。新規参入は思ったように増えず、ウェザーニューズに続く企業顧客は得られなかった。
超小型衛星で低コストになったとはいえ、それでも数億円という予算規模は、多くの民間企業にとって、決して安い金額ではない。しかも宇宙だと、打ち上げの失敗や衛星の故障などのリスクもある。
そこで、2014~2015年ころ、同社は方針を転換し、データビジネスへの進出を決めた。衛星を所有するリスクが問題なら、そのリスクは同社が負う。それならば、顧客はリスクフリーで、衛星データだけを利用することができる。こうしてスタートしたのが「AxelGlobe」で、現在、自社の観測衛星として5機の「GRUS」が運用中だ。
AxelGlobeは同社のビジネスの大きな柱として、引き続き推進していくが、ただその一方で、専用衛星のビジネスも諦めたわけではない。従来よりも、もっと衛星開発そのものを分かりやすく、使いやすいものにして、敷居を下げる。さらに、短納期・低コストで実現できるようにする。そのためのサービスがAxelLinerである。
AxelLinerが提供する3つの価値
AxelLinerでは、まず汎用的に使える標準衛星バスを開発する。顧客の要望に応えるため衛星をフルカスタマイズすると、どうしても開発に数年を要してしまう。人的リソースの負担も大きい。しかし標準衛星バスがあれば、顧客ごとに異なるミッション部分のみを開発すれば良く、最短で1年という短納期を実現できる。
標準衛星バス自体は、すでに民間の衛星開発で普通に利用されているものであるが、AxelLinerで注目すべきは、「宇宙機製造アライアンス」という、ユニークな衛星の量産体制を構築することだ。
衛星の量産というと、Starlinkのようなものを想像するかもしれないが、同社が目指すのはそこではない。同じ衛星を100機や1,000機も作るようなときは、自社で製造まで行うだろうから、こんな大規模な受注は期待しにくい。同社が想定するのは、あくまで複数の案件を同時に抱える少量多品種の製造だ。
このアライアンスでは、製造は由紀ホールディングス、調達はミスミといった風に、各分野のエキスパートと提携する。由紀ホールディングスは、宇宙分野での経験が豊富で、WNISAT-1では、構体の製造も担当した。今後、衛星の受注が増えたときでも、アライアンスを活用すれば、柔軟に対応しやすいだろう。
ここで面白いのは、製造業にありがちな親・下請けのようなピラミッド型にはせず、「対等な関係」を目指すことだ。たとえば、設計の意図なども含めた情報を各社間で共有することで、無用なマージンを排除する。他業種のノウハウ導入を積極的に進め、全体最適を図ることで、高品質で迅速な衛星製造を可能にするという。
ただ、安く・早く衛星を作れるようにするだけでは、必ずしも顧客は増えない。宇宙の知識があまりない企業にもアプローチするためには、衛星をもっと導入しやすく、運用しやすいものにする必要がある。
AxelLinerでは、自動化された運用システムを提供し、打ち上げ後の顧客の負担を軽減する。これは、すでにAxelGlobeの運用で導入されているものだ。管制・監視などの自動化により、無人での運用を実現。コマンドは自動生成、データはクラウドに自動保存されるので、顧客はやりたいことのみに集中できる。
そして、プロジェクトの実現可能性を検討するフィージビリティスタディから、本番の運用まで、全プロセスで共通したプラットフォームを提供。同じコマンド/ユーザーインタフェースにより、開発、試験、運用ができるので、実際に運用が始まったとき、顧客は戸惑うこと無く、システムを安心して使えるというわけだ。