大阪公立大学(大阪公大)は10月18日、Ca・Mg・Feなどを含む輝石の一種「単斜輝石」のFeイオンの状態を、薄片結晶を使った「メスバウアー分光法」を用いて調べたところ、Ca含有量が50%程度の単斜輝石の結晶においては、ポジション「M1席」にあるFeイオンのメスバウアーピーク比を決めるテンソル値(3×3の行列で表される物性値)がFeの含有量とは無関係に一定で、Ca固溶量によって変化することを明らかにしたと発表した。
同成果は、大阪公大大学院 理学研究科の篠田圭司教授らの研究チームによるもの。詳細は、日本鉱物科学会が刊行する欧文学術誌「Journal of Mineralogical and Petrological Science」に掲載された。
輝石は化学組成が(Ca,Mg,Fe)SiO3と表現されるように、Ca・Mg・Feなどを含む主要な珪酸塩鉱物で、多くの岩石に含まれている。その物性を明らかにすることは、輝石の高い存在量から、岩石鉱物研究において大きな意義があると考えられているという。
また、鉱物の構成原子が各々どのような状態であるかを調べることは、その物質を理解するためには必要不可欠だとする。中でも、岩石鉱物に普遍的に存在する鉄の価数(Fe2+とFe3+)とその量比は、鉱物生成時の地下での環境や、鉱物生成後の地表での履歴を知るという理由で、極めて重要な情報とされる。
主要な珪酸塩鉱物中で鉄イオンは、酸素イオン6~8個に囲まれた位置に存在し、このような位置はMetalの頭文字を取ってM席と呼ばれており、輝石の結晶構造中には2種類のM席があり、それぞれM1席、M2席と呼ばれているという。
今まで、輝石のM1席を占めるFe2+のメスバウアースペクトル比を決めるテンソル値は、特定の固溶成分においては明らかになっていたが、輝石固溶体全体では、テンソルの各成分がどのように変化するのかは不明だったという。固溶成分が変化したとき、テンソル成分がどのように変化するのかがわかれば、どのような成分の輝石をメスバウアースペクトル測定しても、信頼のおける解析が可能になるとされている。
メスバウアー分光法は、Coの放射性同位体「57Co」が、Feの安定同位体「57Fe」に放射壊変する際に発生する、14.4keVのガンマ線を用いた分光法で、吸収スペクトルの違いにより鉱物中のFeイオンの状態を知ることが可能だという。このガンマ線は輝石の結晶構造中のFeイオンにより吸収され、そのメスバウアー吸収スペクトルは1対(2本)の吸収ピークとなる。2本の吸収ピークの総強度を分母に取り、高速度側のドップラー速度の吸収ピークの強度を分子に取った値が、メスバウアーピーク比と定義されている。