西日本旅客鉄道(JR西日本)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月17日、「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」の枠組みのもと、2022年10月より故障予測AIを活用した宇宙機のヘルスマネジメント事業を創造する「事業コンセプト共創活動」を開始したことを発表した。
J-SPARCは、宇宙ビジネスを目指す民間事業者などとJAXAとの対話から始まり、事業化に向けた双方のコミットメントを得て、共同で事業コンセプト検討や出口志向の技術開発・実証などを行い、新しい事業を創出するプログラムだ。2018年5月から始動し、これまでに30を超えるプロジェクト・活動が進められている。
そしてJR西日本では現在、鉄道設備のメンテナンスにおける生産性向上の観点から、独自のデータアナリティクス組織がセンサやカメラから得られる多様なデータを分析し、AIなどを活用した設備の故障予測の技術開発を進めている最中とする。なおAIによる故障予測は、自動改札などの一部の業務においてすでに活用中だという。
またJAXAは、人工衛星を運用する上で、人工衛星の健全性確認に必要な多様なテレメトリデータの取得を行っている。現在は地上に送られるそのデータ群を運用管制員がつぶさに観察することで、故障や異常を未然に防止し、健全な衛星の運用が実現されている。また、データ分析による宇宙システム解析検証技術の研究にも取り組み中だという。
今回の共創活動においては、JR西日本はデータ分析によるAI開発技術およびその業務実装ノウハウを提供し、適切な課題設定およびその実装方法のデザインを行うとする。また、JAXAの持つ人工衛星からのテレメトリデータアセットおよび人工衛星に関する運用のノウハウの提供により、人工衛星における故障および異常兆候の検知AIの開発に関する知見を獲得し、人工衛星運用の品質の向上・効率化に活かしていくという。これらの両者の技術やノウハウを掛け合わせることで、人工衛星の故障および異常兆候の検知AIの開発を進め、人工衛星の予知保全に挑戦するとしている。
さらにJR西日本では、今回の「宇宙機のヘルスマネジメント事業」の創出を目指すと同時に、既存の取り組みである鉄道設備の状態監視保全・予知保全技術へもフィードバックし、その精度を高めていくとする。また、得られた知見をほかの産業の設備機器などへも水平展開し、設備機器などのメンテナンスのスマート化にも取り組むともしている。
一方のJAXAは、技術協力を通してその活動を支援するとともに、人工衛星運用の健全性管理における品質の向上・効率化における新たな知見獲得を目指すとしている。
JR西日本とJAXAは、今回の事業コンセプト共創活動を通して、人工衛星運用における故障および異常兆候の検知AI技術について検討を促進し、鉄道はもちろんのこと、人工衛星や設備機器などのメンテナンスにおける品質とコストの課題を解決し、生産労働人口の減少などの社会課題解決に貢献していくとした。
また、この共創活動により得られた知見を活かし、データ分析による寿命予測・故障確率の推定による運用中の人工衛星の健全性評価やリスク評価につなげ、将来的に軌道上衛星の有効な利活用事業やリスクヘッジ事業の構想およびその事業性の検討をしていくとしている。