EY Japanは10月17日、オンラインで記者説明会を開催し、企業のサステナブル経営に向けた変革を支援するため、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)で要求される気候変動リスク・機会の財務的なインパクトを短期かつ高精度に分析するためのツール「気候変動リスク財務インパクト分析ツール」を提供することを発表した。
プライム市場の804社がTCFDに賛同
2017年に公表された「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」最終報告により、気候変動が経営に与えるリスク・機会を認識し、複数の将来シナリオに基づき財務インパクトを分析することが企業に求められている。TCFDは気候変動のリスクと機会にかかる「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」を開示するよう企業に推奨している。
2020年の第50回世界経済フォーラム・ダボス会議においてステークホルダー資本主義が注目され、同9月には企業が利用することを想定した測定仕様を公表。2021年にはEUで「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)」の施行、日本でもコーポレートガバナンス・コード(CGC)の改訂が発表されている。
EYストラテジー・アンド・コンサルティング ストラテジックインパクトパートナー 兼 EY Japan SDGsカーボンニュートラル支援オフィスメンバーの尾山耕一氏は「CGCの改訂では、プライム市場上場の条件として『プライム市場上場企業において、TCFDまたはそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実』が求められるようになっている。2022年10月時点では40%以上に相当する804社がTCFDに賛同している」と述べた。
サステナビリティ経営の高度化に向けて、企業・組織では経営戦略と整合した中長期的な「戦略策定」、事業活動とサステナビリティ活動を一体化させた「活動展開」、ステークホルダーに情報開示して獲得するインパクトを最大化する「情報開示~成果獲得」までのプロセスに対して、総合的なアプローチが求められている。
そして、企業活動の持続性への好フィードバックとサステナビリティ活動好循環の原資を獲得し、サステナビリティ経営を着実に推進するための体制・仕組みを強固にする「ガバナンス体制」の構築が必要となる。
こうした状況をふまえ、同社では戦略策定から活動展開、情報開示~成果獲得、ガバナンス体制構築までのプロセスを各業界・分野それぞれの専門家がチームで連携し、ビジネスのさまざまな課題をトータルで支援するサステナビリティ経営コンサルティング・サービスを提供している。
気候変動リスク・機会の財務インパクトを分析
ただ、企業では気候変動への対応と経済的成果を両立させる経営戦略の再構築が求められていることに加え、金融機関や投資家は投融資ポートフォリオの脱炭素化に向けて、投資行動やエンゲージメントを強化することが必要となっている。
尾山氏は「国際的な基準では具体的な数値の開示が求められ、財務インパクトの定量化の精度向上が望ましい。開示が求められる4項目のうち、戦略においてシナリオ分析に対応しなければならない」との認識を示す。
シナリオ分析のステップはガバナンス整備にはじまり、リスク重要度の変化やシナリオ群の定義、事業インパクト評価、対応策の定義をふまえて文書化・情報開示となる。このステップにおいて、事業インパクト評価は気候変動アクションを実行するために、財務インパクト分析の活用と精度向上が不可欠となることから、同社では気候変動リスク財務インパクト分析ツールを開発した。
同ツールは、気候変動リスク・機会の財務的なインパクトを短期かつ高精度に分析することが可能。企業固有の情報とさまざまな外部の関連情報をインプットし、同社がこれまで多くの企業の支援を通じて蓄積した経験とロジック、業界別ロジックを用いて分析、複数の気候シナリオにおける将来の財務影響を自動的に可視化する。
ツールから導き出される結果は、TCFD情報開示に活用できるほか、経営戦略や脱炭素戦略の立案に活かすことを可能とし、金融機関などでは投融資の意思決定に活用できるという。同ツールでは「入力」「分析」「出力」「活用」までの分析データと流れのうち、主に分析と出力を担う。
気候変動リスク・機会のリストや財務情報・経営戦略、CO2排出量削減目標などの個社情報、気候リスクシナリオといった移行情報、自然災害リスクをはじめとした物理情報などのデータを同ツールに入力し、各種シミュレーションやクライアントデータ取込、外部データ連携し、データ処理・分析を行う。
デーを処理・分析したうえで、個別の気候変動リスクの財務インパクトやP/L(損益計算書)、B/S(賃借対照表)、キャッシュフローなどをダッシュボードで可視化し、さまざまな意思決定に活用できる自由度の高いレポートを提供する。
尾山氏は「TCFDの情報開示に利用するためのツールだ。各社における気候変動リスクをふまえた経営戦略の立案や、カーボンニュートラルのロードマップの整備などの検討、意思決定の材料になると考えている。また、金融機関においてもネットゼロ・バンキング・アライアンスの動きに同調する中で自社の投融資に関するゼロエミッションに向けた取り組みなどのトレンドが強くなっているため、そのような場合にも活用してもらいたい」と同ツールのメリットを強調していた。