九州大学(九大)、科学技術振興機構(JST)、日立製作所(日立)、明石工業高等専門学校(明石高専)の4者は10月14日、最先端の電子顕微鏡技術と情報科学的手法(微弱信号の抽出技術)を融合させた独自の研究戦略により、透過電子顕微鏡法の一種である「電子線ホログラフィ」の位相計測精度を従来よりも1桁向上させ、ナノ粒子の電荷量を電子1個の精度で計測することに成功したと発表した。
同成果は、九大大学院 工学研究院の麻生亮太郎准教授、同・村上恭和教授、日立の谷垣俊明主任研究員、同・品田博之技術顧問、明石高専 専攻科の中西寛教授、大阪大学大学院 情報科学研究科の御堂義博特任准教授、九大大学院 総合理工学研究院の永長久寛教授、同・北條元准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米科学雑誌「Science」に掲載された。
触媒材料の研究開発において、触媒の電位分布や帯電の様子を明らかにすることが重要とされ、試料を透過した電子波の位相変化(電子の進み具合の変化)を計測することで、局所領域の電場や磁場の分布を明らかにすることが可能な電子線ホログラフィの活用が期待されている。
しかし、触媒ナノ粒子が示す微弱な電位分布・帯電を計測するためには、電子線ホログラフィの位相計測精度を従来よりも1桁高めるという、技術上な飛躍が必要であり、触媒の解析は長年にわたる難題だったとする。そこで研究チームは今回、電子線ホログラフィの位相計測精度が、画像データのホログラムの像質に強く依存することに注目し、その像質改善と微弱情報の抽出を追求することにしたという。
ホログラムの像質改善により位相計測精度を1桁高めるためのアプローチは、いくつかの手法がある。測定時間をより長くすることもその1つだが、この場合、従来よりも100倍も長くする必要があることが課題となっていた。測定時間を長くするということは、それだけ電子照射量を増やすということであり、その結果として、試料の変質・損傷を招いてしまうという課題が生じるためで、測定時間の延長という手法では限界があり、目標とする精度を達成することが難しかったとされる。
そこで今回は、ホログラムの像質に深く関係する「電子波の干渉性・平行性」について、高性能ハードウェアと新たな情報科学的手法を組み合わせることで、位相計測精度の1桁向上を目指すことにしたという。