量子科学技術研究開発機構(量研機構)、神戸大学、京都大学(京大)、名古屋大学(名大)の4者は10月13日、マイクロメートルスケールの球状の固体水素である「水素クラスター」に超高強度レーザーを照射することによって、メガ電子ボルト(MeV)という高い領域でエネルギーが揃った、純度100%の陽子ビーム(レーザー駆動陽子ビーム)を繰り返し発生させることに成功したと発表した。
同成果は、量研機構 量子ビーム科学部門 関西光科学研究所の福田祐仁上席研究員、東京大学の神野智史助教(現・日本原子力研究開発機構所属)、神戸大大学院 海事科学研究科の金崎真聡准教授、同・山内知也教授、同・浅井孝文大学院生、京大 エネルギー科学研究科 エネルギー基礎科学専攻エネルギー物理学講座の松井隆太郎助教、同・岸本泰明教授(現・名誉教授)、名大 未来材料・システム研究所の北川暢子特任助教、同・森島邦博准教授、量研機構 放射線医学研究所の小平聡グループリーダー、東大大学院 工学系研究科(工学部)の上坂充教授(現・内閣府原子力委員会委員長)らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
超高強度かつ超短パルスのレーザー光(超高強度レーザー)により、従来にない超高温・超高圧状態のプラズマを作り出せるようになり、それを利用した新たな概念の粒子加速手法「レーザープラズマ加速」が生み出されたが、従来のレーザー駆動陽子ビーム発生研究では、金属やプラスチックの薄膜ターゲットを用いていたため、純度100%の陽子だけを加速させることは困難だったという。ターゲット表面に付着した不純物に由来する炭素イオンや酸素イオンもレーザー照射によって同時に発生するため、陽子のみを選択的に繰り返して発生させることが課題となっていたためだという。
そうした中で近年になって、陽子ビームのもととなる水素ガスなどをレーザー照射のターゲットとすることで、レーザー駆動陽子ビーム研究が進展。研究チームは水素クラスターを用いる手法を採用し、2017年に世界に先駆け同クラスターを100Hz以上繰り返し発生させられる装置の開発に成功したという。
今回、同装置を、量研関西研が運用するピーク出力1PWという世界トップクラスの性能を有する超高強度レーザー装置「J-KAREN」の繰り返し周波数(10秒間に1回)と同期させて動作させ、純度100%のMeV領域の陽子ビーム発生に挑むことにしたという。