京セラは10月11日、白色光と近赤外光が一体となったヘッドライトを搭載した車載ナイトビジョンシステムの開発を発表。同日には記者発表会を開催し、夜間の交通状況を再現してシステムのデモンストレーションを行った。

  • 記者発表会に登壇した京セラ先進技術研究所の小林正弘所長(写真左)、大島健夫氏(写真中央)、林祐介氏(写真右)

    記者発表会に登壇した京セラ先進技術研究所の小林正弘所長(写真左)、大島健夫氏(写真中央)、林祐介氏(写真右)

需要が高まる車載ナイトビジョンシステム

交通事故の削減や自動運転の実現に向け、自動車の危険検知機能に対する要求は日々高まっている。特に、夜間や霧の中など人の目で視認しにくい環境下で危険を検知する車載ナイトビジョンシステムについては、世界市場の大幅な拡大が見込まれており、2027年までの成長率は16.5%以上だと予測されている。

また、車載センシングシステム全体では、可視光カメラやミリ波レーダ、LiDARなどさまざまな種類が実用化されているが、それぞれが得意とする用途が異なり、互いに補完し合うために複数の搭載が行われている。そのため今後の課題として、危険検知能力の高度化とセンサ搭載数削減の両立が求められているという。

  • 車載センシングシステムとして利用される可視光カメラや赤外線カメラなどのセンサは、それぞれ外部環境によって検出性能が異なる

    車載センシングシステムとして利用される可視光カメラや赤外線カメラなどのセンサは、それぞれ外部環境によって検出性能が異なる(提供:京セラ)

京セラは、同社子会社であり車載用レーザーライトなどの生産を行うアメリカのKYOCERA SLD Lazerから、車載ナイトビジョンシステムの付加価値提供に対する要請を受け、京セラの先進技術研究所での開発を開始したとのこと。その結果、KYOCERA SLD Lazerが保有する照明技術と京セラによるAI技術開発を組み合わせることで、可視光と近赤外光の両方を同時に活用したセンシングシステムの開発に至ったとする。

新センシングシステムの特徴である3つの技術とは?

今回発表されたシステムでは、3つの技術が特徴だという。

  • 今回発表された車載ナイトビジョンシステムがもつ3つの技術的特徴

    今回発表された車載ナイトビジョンシステムがもつ3つの技術的特徴(提供:京セラ)

白色光・近赤外光一体型のレーザヘッドライト

今回発表されたシステムでは、光源として、白色光と近赤外光を同じ光軸から発光可能なヘッドライト(White-IR照明)が採用された。同技術では、照明内の1つの素子が白色光と近赤外光の両機能を持つとのことで、これにより同じ光軸から2種類の発光が可能になり、光の当たり方に差が出ず経年変化が生じにくいとする。

京セラの林祐介氏によると、一体型光源の開発においては発光機能の「小型化が最大のハードルだった」とのことで、KYOCERA SLD Lazerが独自開発した高輝度かつ高効率で小型パッケージのGaN製白色光レーザを搭載することで、完成に至ったという。2種類の光源を一体化により搭載部品数を削減し、ヘッドライトの省スペース化を実現。車体のデザインにも自由度を提供するとしている。

  • 記者発表会に登壇した京セラの林祐介氏

    記者発表会に登壇した京セラの林祐介氏

また、ヘッドライト内の白色光をロービームに、近赤外光をハイビームに使用するなど、周囲の環境に応じて配光を変化させることも可能で、まぶしさを抑えたセンシングを実現するとのことだ。

フュージョン認識AI技術による検出精度向上

車両に搭載されるRGB-IRセンサ(白色光と近赤外光のセンサ)には、京セラ先進技術研究所が独自に開発した「フュージョン認識AI技術」を採用している。

同AI技術では、通常の明るさでの認識に強みを持つ可視光画像と、悪条件下での認識に強い近赤外光画像それぞれの認識結果から、信頼性の高い領域を組み合わせて判断することが可能だという。これにより、視界の悪い環境下でも歩行者や車両を検出することができ、危険要因を検知した場合には運転者への通知を行うとのことだ。

  • 暗闇における可視光(白色光)と近赤外光のセンシング性能比較

    暗闇における可視光(白色光)と近赤外光のセンシング性能比較(提供:京セラ)

AI学習コストを削減させる学習データ生成AI技術

AIによる画像認識は、実用化に向けて大量の学習データが必要となる。白色光と近赤外光の両方を用いた車載ナイトビジョンシステムでは、学習データとして、可視光で撮影した画像データと近赤外光で撮影した画像データをそれぞれ集める必要があり、作業コストが膨大になる点が課題だったという。

今回京セラが開発した手法では、可視光で撮影した学習用画像から、近赤外光による学習用画像を自動で生成する学習データ生成AI技術を確立・搭載しており、これによりAI活用までの学習コスト削減と、認識制度の向上を両立したとのことだ。

夜間環境を再現したデモンストレーションを実施

記者発表会後には、夜間の道路環境を再現したミニチュアによるシステムのデモンストレーションが行われた。デモ環境内では、黒色の服を着た歩行者や移動する車など、夜間の見落としにより交通事故を引き起こしやすい状況が再現され、2種類の光源によるセンシングと白色光のみでのセンシングの比較が行われた。

  • デモ環境には、人型の模型が3つ、センサ視野角の端に止まった車の模型1台、円状の道路を周回走行する車の模型3台が設置されている

    デモ環境には、人型の模型が3つ、センサ視野角の端に止まった車の模型1台、円状の道路を周回走行する車の模型3台が設置されている

部屋を暗転し夜間の環境を再現して行われた実演では、白色光のみでは光が届かない範囲の物体を認識できないのに対し、近赤外光を組み合わせた新システムでは7つの対象すべてが認識された。また、実際にはほぼ同じ画角で比較している中でも参加者から「比較している2つで画角が異なるのでは」との質問が出ており、近赤外光を用いることによる視野の広がりを感じさせる結果となった。

  • 白色光のみの撮影映像(写真左)と新ナイトビジョンシステムでの撮影映像(写真右)。白色光のみでは光が届かず認識できない範囲の人や車を、新システムでは認識している

    白色光のみの撮影映像(写真左)と新ナイトビジョンシステムでの撮影映像(写真右)。白色光のみでは光が届かず認識できない範囲の人や車を、新システムでは認識している

なお、同様のデモンストレーションは2022年10月18日から10月21日まで幕張メッセで開催される「CEATEC 2022」でも展示されるとのことだ。

2025年の技術確立・2027年の市場投入を目指す

今回発表されたセンシング技術は、夜間の監視カメラによるセキュリティや、小型ドローンによる自動搬送など、さまざまな適用範囲が見込まれる。京セラの大島健夫氏は、同システムの実用化に関して「まずは車載領域をメインターゲットとしており、その領域で事業としてのめどが立った際には、その他の領域への展開も進めていく」と話す。

また、同システムは2027年以降の事業化を目指しているとのことだが、京セラ先進技術研究所所長の小林正弘氏は、この時期設定について「KYOCERA SLD Lazerから2027年ごろの市場投入に対する要求があった」とし、同研究所としては「2025年の技術確立を目指している」と語った。