東京大学(東大)と京都大学(京大)は10月7日、セルロースナノファイバー(CNF)の欠陥構造の精密な解析を試みた結果、CNF表面には原子レベルの「凹み」が多く存在していること、その凹みはCNFの全長の少なくとも30~40%を占めていることを発見し、中でも折れ曲がりの付近で発生している凹みは、そのほかの場所に生じている凹みよりも深く長い傾向があることも見出したと発表した。

また、それらの結果から、機械処理によってパルプがCNFへと解きほぐれる際にCNF表面からセルロース分子鎖が剥離し、CNFの折れ曲がりや切断につながるという、CNF欠陥構造の発生機構を提案したことも併せて発表された。

同成果は、東大大学院 農学生命科学研究科 生物材料科学専攻の伊藤智樹大学院生、同・大長一帆農学共同研究員(現・金沢大学ナノ生命科学研究所)、同・藤澤秀次助教、同・齋藤継之教授、京大 農学研究科の小林加代子助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会が刊行するナノサイエンスとナノテクノロジーに関する全般を扱う学術誌「Nanoscale Horizons」に掲載された。

CNFは、樹木の細胞壁(パルプ)を化学・機械処理によりナノレベルまで解きほぐして得られる繊維状の材料であり、「軽くて強い」、「熱しても膨張しない」、「絶縁性で誘電率が高い」などの優れた特性を兼ね備えていることなどが知られており、低炭素社会における高機能材料として期待されている。

しかし実際のところは、あまり社会実装が進んでいない。その原因の1つとされるのが、CNF材料の性能が、CNF1本の優れた特性から期待される水準に達していない、という点だという。

  • CNFの概要

    CNFの概要 (出所:東大Webサイト)

一般にナノ材料の欠陥構造は、材料の強度の低下などにつながってしまう。CNFにも折れ曲がりや裂け目などの欠陥構造が存在することが報告されていたが、詳細は不明であったという。CNFの優れた特性を十分に活かすには、欠陥の詳しい構造や発生機構などの理解が不可欠なことから研究チームは今回、試料を原子レベルの精度で観察可能な顕微鏡と、画像処理による解析を組み合わせることで、CNFの欠陥構造の精密な解析を試みることにしたという。