ヤマハ発動機は10月6日、オンサイトとオンラインのハイブリッド形式で記者会見を開催。同社が展開する産業用マルチロータシリーズの新製品で自動飛行機能を標準搭載した「YMR-II」の2023年春の発売、および、自動飛行機能を追加搭載した産業用無人ヘリコプターの新製品「FAZER R AP」の開発を発表した。

  • ヤマハ発動機が2023年春ごろに発売する産業用マルチロータ「YMR-II」

    ヤマハ発動機が2023年春ごろに発売する産業用マルチロータ「YMR-II」

  • ヤマハ発動機が開発した産業用無人ヘリコプター「FAZER R AP」

    ヤマハ発動機が開発した産業用無人ヘリコプター「FAZER R AP」

農業の課題解決に無人機での貢献を目指すヤマハ発動機

日本国内の農業においては、農林水産省が掲げる「みどりの食料システム戦略」が1つの指針となっており、「調達の脱輸入・脱炭素化・環境対応」「イノベーションによる持続的生産体制」「ムリ・ムダの無い加工・流通」「環境にやさしい消費拡大・食育」が目指されている。

特に、少子高齢化などに起因する人手不足が喫緊の課題になっている中、農作業の省人化や省力化に対するニーズは大きい。実際に国内の農業現場では、水稲の殺虫殺菌に無人ヘリコプターを活用する事例が増加しており、近年ではより小型なマルチロータ(ドローン)の導入も増えているという。ヤマハ発動機によると、2021年には水稲栽培の現場で無人ヘリコプターやドローンを活用する割合は約49%にまで上っているとのことで、今後はさらなる利用増加が予想される。

  • 水稲散布面積と使用機材の割合の推移

    水稲散布面積と使用機材の割合の推移(提供:ヤマハ発動機)

産業用無人機の開発・販売を行うヤマハ発動機は、農業現場向けの産業用無人ヘリコプター・産業用マルチロータに加え、物流や計測に利用可能な自動航行型産業用無人ヘリコプターなども扱っている。同社は今後これらのノウハウを活用することで、充実した環境対応性能や運用体制をもち、高性能な飛行管理ソフトと紐づいた自動飛行無人機の生産を目指すとし、それにより農作業の自動化や収量増加への貢献を目指しているという。

2製品のキーワードは「共通化」

ヤマハ発動機UMS事業推進部の杉浦弘明氏によると、今回発表された2製品は、それぞれの強みの「共通化」が大きなキーワードとなっているといい、「両モデルの良いところを共通化し、自動化機能を加えることで、農作業の効率化に貢献する」と語った。

  • 発表した両製品の特徴を紹介するヤマハ発動機の杉浦弘明氏

    発表した両製品の特徴を紹介するヤマハ発動機の杉浦弘明氏

両モデル共通の特徴としては、高精度な測位方式への対応と新型自動飛行用アプリケーションの搭載が挙げられる。両モデルはRTK(Real-Time Kinematic)を用いた測位に対応しており、GPSと組み合わせることで、測量の誤差がより小さくなるとする。また、この測量データを活用することで、アプリ上から散布ルートの作成や自動飛行散布が可能になるとしている。

加えて、これらの測量データや飛行ログはクラウドにアップロードすることが可能で、翌年度も同じ圃場へ散布を行う場合は、その際の測量が不要になるとのことだ。これにより測量の時間を削減し、より効率的な農作業が可能になるという。

セキュリティ性能が向上したYMR-II

またYMR-IIが持つ特徴として、通信・セキュリティ性能や設計についても言及された。

  • YMR-IIがもつ特徴

    YMR-IIがもつ特徴をまとめた紹介資料(提供:ヤマハ発動機)

YMR-IIは、通信の暗号化やユニークIDによるペアリングを行っており、通信セキュリティ性能が向上しているという。また情報セキュリティの面では、クラウド上に保存したデータの秘匿性を向上させることで、ノウハウや作付け状況などの情報流出リスクを低減させたとする。

また同製品は、8枚ロータだった従来モデルから6枚ロータに仕様が変更されたほか、ロータを折りたたんで収納することにより、非飛行時の体積比を約1/2に縮小したとのことだ。

YMR-IIはタンク容量約10Lでの発売を予定しているとのことで、1回で15分ほどの飛行を行い、8倍希釈の農薬であれば1ha程度の範囲に散布することができるとする。

ヤマハ発動機UMS事業推進部の倉石晃事業推進部長によると、ロータ数の削減によって、販売価格が15%ほど安くなったという。しかしこれについては「本来はもっと価格を下げようとしていて、そのニーズが大きいのも承知している。だが昨今の情勢により半導体や部材が高騰しており、今回の金額での販売に至った」と話した。

  • 発表された両モデルと並ぶ倉石晃事業推進部長

    発表された両モデルと並ぶ倉石晃事業推進部長

農場に合わせて「適材適所」での活用へ

倉石氏は、今後の農業における無人機の活用について「適材適所」という言葉を繰り返した。

水稲のような大規模農園においては、無人ヘリコプターを活用した広範囲での一括散布の需要が高いといい、また希釈倍率が高い農薬を使用する畑作での利用にも、比較的容量の大きい無人ヘリコプターの適用が期待できるとのことだ。一方で、小規模農園や住宅街に近い農園では、小回りが利き騒音が発生しにくいマルチロータの適性が高いとし、さらに小範囲にピンポイントで薬品散布を行うことも可能だとする。

このように両製品がもつ強みをそれぞれ発揮するため、両モデルを組み合わせて使用することも期待されるとした。

なお杉浦氏によると、YMR-IIの販売価格は185万9000円(送信機やバッテリなど含む)を予定しており、年間400機の販売を計画しているという。また両モデルは、2022年10月12日から14日まで幕張メッセで開催される「第12回農業Week」のヤマハ発動機ブースで、参考出品されるとのことだ。

  • ヤマハ発動機による市場見通しとUMR-IIの販売計画

    ヤマハ発動機による市場見通しとUMR-IIの販売計画(提供:ヤマハ発動機)