スマートホーム、オフィス、工場の設計者は、ビル設備の提供および管理に使用されるシステムの効率向上に役立つ新しい方法を常に模索しています。
従来、データネットワークと電力ネットワークは、それぞれが明確に異なる機能を果たす目的で別々に敷設されており、建物の構造内にまったく異なる2種類のケーブルを敷設する必要がありました。PoE(Power over Ethernet)の開発によって、一部の機器(カメラ、電話、無線ルーターなど)では、電力ケーブルの代わりにデータケーブルから電力を引き出すことができ、AC主電源ケーブル配線の必要性が減りました。PoEの潜在的用途として、ますます注目されている1つの分野が照明です。本稿では、スマートビルディングシステムの配備と管理において、コネクテッド照明システムが果たす役割を検討し、照明とビルオートメーションの潜在的な関係を考察します。また、その設計への標準的なアプローチを見直し、設計の大幅な簡素化を図りながら、コネクテッド照明システムの新しいアプリケーションを実現する方法を説明します。
コネクテッド照明とビルオートメーション
家庭用、商業用、工業用を問わず、ビル内にはどこにでも照明があります。近年、効率の悪い白熱電球やハロゲン電球は、多くが低消費電力・高効率のLEDに置き換えられています。しかし、照明に電力を供給する方法はそれほど変わらず、今でも照明器具の設置場所まで幹線ケーブルが引き回されています。LEDはDC電源を必要とするため、照明器具にはAC-DC変圧器と、LEDに必要な電圧レベル、最終的には制御電流を供給するためのDC-DC変換器が必要です。照明器具を照明という単一機能として捉えるこの考えは、効果的な照明ソリューションを提供する一方で、照明器具が他のさまざまなスマートビルディング機能を提供する理想的な位置にあるという事実を完全に無視しています。
照明器具が至る所に存在する状況を活かす第一歩は、デジタル接続を与えることです。個々の照明器具をデジタル化して相互接続し、1つのシステムにまとめると、ビル全体でIoTアプリケーションを提供するのに理想的なバックボーンとして機能します。コネクテッド照明システムでは、どの照明器具にも固有のIPアドレスが付与され、ビル内のデータネットワーク上で双方向のデータ通信が可能になります。
電気およびデータ通信ネットワークが既に存在するため、コネクテッド照明は、住宅、オフィス、工場でIoTデータを伝送するための有力な候補です。このアプローチにより、コネクテッド照明器具は、無数のアプリケーションを持つ他のセンサ機能を提供することができます。さまざまな種類のスマートセンサ(温度、湿度、近接、空気質など)を統合することで、コネクテッド照明システムはビル内の部屋における人間の居住状況や、その他の環境指標に関するデータを同時に取得して、スマートビルディングオートメーションシステムのアクション可能な入力情報として利用できるようになります。この情報は、居住者のために空間の最適化、運用の効率化、ビル環境の快適性を高めるのに役立てることができます。また、このシステムで収集された居住者の行動に関する知見は、エネルギー管理の目的にも使用できます。
コネクテッド照明システムの実装
照明器具にデジタル接続機能を持たせる1つの方法として、Wi-Fi無線を組み込むことが考えられます。しかし、無線RF信号は、設置場所およびその場所から最も近いアクセスポイントまでの建材の種類によって減衰レベルが異なるため、データ通信の速度と信頼性の両方に悪影響を与える可能性があります。より良い方法は、各照明器具にイーサネットインタフェースを設けることですが、この場合、各照明器具の位置までCat5/6ツイストペアケーブルを配線する必要があるため、配線量が2倍になり(メインケーブル配線は計画済みと仮定)、それに伴って設置のコストと労力が増加します。理想的には、コネクテッド照明ソリューションでは、電力(LED、カメラ、スマートセンサ用)と同じ機器からリモートコントローラへの双方向データの両方を1本のケーブルだけで伝送することです。そうすれば、各照明器具に個別に電源ケーブルを配線する必要がなくなるという大きな利点が得られます。PoEは、機器に動作用DC電圧と実装されたイーサネット規格の速度でネットワークデータを供給できるため、この目的に最適です。
完全統合ソリューション
PoE接続の照明器具は、現在LED光源用のドライバICとイーサネット経由で電力を供給するPoEインタフェースICを別々に使用しています。オンセミの「NCL31010」は、この2つのコンポーネントを1つのパッケージに統合しており、完全に接続し管理された照明システムのベースとして使用できます。
このデバイスはPoE規格(90W以上のシステム電力を供給可能)に準拠し、IEEE802.3bt/at/af規格の認証も取得しています。降圧LEDドライバは、変換効率が97%で、高帯域幅・高直線性のアナログおよびPWM調光(ゼロ電流まで)をサポートし、伝導EMIと放射EMIの両方を減らすのに有効なスペクトラム拡散技術を採用しています。
また、2つの補助DC-DCコンバータも、マイクロコントローラやセンサなどの増設周辺機器に電力を供給するのに利用できます。さらに、入出力電流・電圧、LEDまたはシステム温度、DC-DC電圧・電流を測定する高精度計測および診断機能も備えています。
このデバイスのアプリケーションとして、低データレートの可視光通信(VLC)があります。このアプリケーションでは、照明器具から放射されるLED光にデジタルデータを変調すると、屋内測位システム(YellowDotなど)の位置ビーコンとして使用できますが、VLCの変調データは人間の目には見えません。
まとめ:未来につながる照明
PoEベースのコネクテッド照明は、データネットワーク経由でLED照明器具を制御し、データケーブル経由で電力を供給でき、あらゆるタイプの先進的なスマートビルディングに最も柔軟で効率的な照明ソリューションを提供します。センサ、インテリジェント照明器具、インテリジェント制御システムを組み合わせて使用することで、スマートビルディングは従来の照明ソリューションでは実現できないレベルの快適性と効率性を実現します。また、スマートビルディングシステムの管理に携わるビル開発会社やビル管理会社も、建設中およびビルが満室になり運用が始まった後で、大幅なコスト削減の恩恵が得られます。
著者プロフィール
マイク・サンダークonsemi。プロダクトマーケティングマネージャー