NECは10月3日、同社のDX(デジタルトランスフォーメーション)領域の事業である「コアDX事業」の今後の事業方針に関する記者説明会を発表した。
同社は「ビジネスモデル」「テクノロジー」「組織 ・人材」を軸に、2019年から社内のデジタルシフトやDX推進に取り組み、得られた知見・ノウハウを同社の技術・製品と組み合わせて「DXオファリング」として社外に提供している。2021年の同事業の方針発表会では、2025年度までに売上収益(売上高)5700億円、調整後営業利益率13%の達成が目標に掲げられた。
データを活用したコンサルティング起点のビジネスに注力
今後、同事業では、データを活用したコンサルティング起点のビジネスに注力するという。具体的には、コンサルタントやアーキテクト、データサイエンティストといった同社のDX人材が、DXの戦略・構想の策定などの上流工程から支援を開始し、各企業のDXの成功ストーリーに合ったオファリングを提供する。
また、同事業の核となる技術基盤「NEC Digital Platform」を活用して、ESG(環境、社会、ガバナンス)やCX(カスタマーエクスペリエンス)、カーボンニュートラルなど、企業価値・社会価値創出につながる新たなオファリングの提供も進める。
CXのオファリングでは、ID統合で取得したデジタル行動データや、生体認証によって取得できるリアル行動データを一元管理できるCDP(Customer Data Platform)を提供し、パーソナライズされたサービスの提供やデジタルマーケティングによるロイヤルカスタマー形成などを支援するという。
カーボンニュートラルのオファリングでは、ESG全体の課題整理や全体戦略計画の策定、施策実行・情報発信までを支援するコンサルティングとともに、分散するエネルギーリソースを統合制御するリソースアグリゲーションや、サプライチェーン全体のCO2排出量の見える化などのソリューションを併せて提供する予定だ。
データドリブンなDXオファリングの提供に向けて、組織・人材面の強化も継続していく。クラウド活用の領域では、現在、AWS、Microsoft、Oracle、Red HatとCoE(Center of Excellence)を構築するグローバルアライアンスを結んでいるが、ITモダナイゼーションに向けたアライアンスを今後も拡充するという。
DX人材の育成も引き続き行い、2025年度には累計で1万人のDX人材創出を目指す。国内のDX推進に向けて、社内人材の充実を図るだけでなく、産学連携も強化していく。2022年8月から筑波大学、東京大学大学院情報理工学系研究科、早稲田大学データ科学センターとパートナーシップ協定を締結し、各大学から推薦をうけた学生がNECのDXプロジェクトに参画するインターンを実施しているが、同インターンも拡充するという。
NEC 代表取締役 執行役員社長 兼 CEOの森田隆之氏は、「事業の中核となるのがコンサル起点のビジネス、NEC Digital Platformを中心としたグローバル共通の技術基盤、新事業領域だ。デジタルシフトを支えるDX人材が経営改革の観点から提案していくオファリングメニューを整えることで、企業視点・社会視点での価値創造につなげていきたい」と説明した。
2023年度にDX戦略コンサルタントを500人に増員
コアDX事業の中心を担う全社横断組織のデジタルビジネスプラットフォームユニットについては、戦略コンサルティング、テクノロジー、マネージドサービスの3グループに再編。主要関係会社も同ユニットに集約し、グループ内での連携を強化しているという。
同ユニット長を務める、NEC 執行役員常務の吉崎敏文氏は、「コアDX事業を立ち上げた当初は、まずオファリングを作った。だが、事業を推進する中で、お客さまのDXには経営アジェンダやDXの目的があり、その先にDX成功に向けたストーリーを描くことができることに気付き、これまで社内でのリスキリングや新規採用を進めて、DX戦略コンサルタントを増員してきた」と明かした。
コンサルティングビジネス推進の体制強化に向けて、グループ会社であるアビーム・コンサルティングとの連携も強化し、DX戦略コンサルタントの人数を現在の300人から2023年度には500人に増員する予定だという。
NEC Digital Platformは、現在、ITとネットワーク関連のアセットを集約・拡張している段階にあるという。しかし、同プラットフォームのアセットの8割はデジタイゼーション(アナログ・物理データのデジタルデータ化)に分類される製品・サービスとなっており、売上の半数以上はIaaS(Infrastructure as a Service)、PaaS(Platform as a Service)によるものとなっている。
「収益の柱は、現状のアプリケーションをクラウドでそのまま利用するためのリフト&シフトが中心となっている。ITの水先案内人として、日本の企業・官公庁・自治体のDX達成を支援するうえで、デジタライゼーション(個別の業務・製造プロセスのデジタル化)領域のオファリング比率を上げていけるかが重要になる。また、新たなビジネスモデルの開発に利用されているSaaSの比率も上げていきたい」と吉崎氏。
セキュリティの新事業では、運用最適化と経営判断をデータで支援
同日には、新たにサイバーセキュリティ事業を強化する旨が発表された。企業のデジタライゼーションを支援すべく、「データドリブンサイバーセキュリティ事業」の下で新たなセキュリティサービスを提供するという。
同事業では、NECのデータレイクに顧客企業のIDやIT資産、メールなどからセキュリティデータを収集し、経営リスク可視化やセキュリティモニタリングのためのダッシュボードと併せて、分析・監視サービスをクラウドで提供する。このほか、セキュリティの設計・運用の改善コンサルティング、セキュリティ対策サービスの提供、運用のアウトソーシングなどのサービスも提供していく予定だ。
NEC サイバーセキュリティ事業統括部 統括部長の岡田勲氏は、「現在、多くの企業ではシステム改変に追従してセキュリティサービスを導入する部分最適な対策を実施している。だが、対策の重複やセキュリティリスクの潜在化により運用が複雑化しており、経営視点ではリスクや問題をわかりにくくなっている。当事業では、セキュリティの運用監視・対処の可観測性の向上と対策の全体最適化とともに、セキュリティ領域の中長期的な経営判断・プロセス改革に併走支援していく」と意気込みを語った。
データドリブンサイバーセキュリティ事業は、サイバーセキュリティデータサイエンティスト、テクニカルコンサルタント、サービスデリバリから成る約500人体制で運営をスタートさせる。加えて、Palo Alto Networks、Zscaler、トレンドマイクロ、Tanium、Contrast Securityら戦略パートナー企業と協業し、オファリングの共創やチャネル連携、サービス基盤開発を共同で実施していく。