東北大学と富士通は9月26日、治療から予防を主とした医療へのシフトによりウェルビーイングな社会の実現を目指す戦略提携について合意し、記者会見を開いた。東北大学が持つ医学的な知見と富士通のデータアナリティクス技術を掛け合わせて、新たな医療の価値創造を目指すとのことだ。
両者は、自律的な健康活動を支援するサービスと日常生活をシームレスにつなぎ、さらにテクノロジーを活用することで、誰もが自分らしく自律的な意思決定を行い、活躍できる世界を見据えているとのことだ。
ウェルビーイング社会を実現するために富士通と東北大学が提携
東北大学病院は、通常の大規模大学病院としての役割に加えて、医療課題の集積地や、AI(Artificial Intelligence:人工知能)人材の育成拠点などとしての側面も持つ。その他、産学連携を進めるために、デザイン思考を軸とする専門のプログラム「ASU(Academic Science Unit)」なども手掛ける。ASUでは、企業の研究者などが医療現場に入り、現場観察を通じてニーズを探索し、デザイン思考で開発ターゲットを見出すという。
一方の富士通はデジタル技術に加えて、グループ会社である富士通 Japanが提供する電子カルテシステムなどのヘルスケアインフラ環境や業務ノウハウなどを保有する。
両者はこうした互いの資産および資源を組み合わせて、国民一人一人が自分自身の目指す健康像に向けて健康増進や病気の予防に取り組むだけでなく、地域全体が医療やサービスを有機的に提供することで、フレイル(病気ではないが加齢に伴い筋力や心身の活力が低下し介護が必要になりやすい虚弱な状態)の防止や早期治療の促進に努めるとのことだ。
「デジタルツインの開発」や「疾患の可能性検知するAIモデル開発」に注力
東北大学と富士通の具体的な実施内容は、「デジタルツインの開発」「疾患の可能性を検知するAIモデルの開発」「データアナリティクスの手法開発」の3点。
デジタルツインの開発では、患者の診療データや検査データ、ウェアラブル端末から得られる情報に基づいた患者増をデジタルツインで再現し、医師がより迅速かつ適切に患者情報を把握できる仕組み作りを進める。また、病院スタッフの人事情報や勤務情報、医療機器の稼働状況などをデジタルツインに統合して、病院経営の支援も目指す。さらには、地域住民の健診結果などをデジタルツインで再現することで、地域住民全体の健康増進と医療費削減に寄与するという。
AI開発では、疾患の可能性を示す微小な異変を診療データから検知するAIモデルの開発を進め、効率的な診断を支援する。また、日常生活の中から取得できる食事や運動などのヘルスケアデータにもAIを応用して、健康状態の変化をいち早く検知して個人に知らせ、医療機関の早期受診を促すなど疾患の重症化防止にも貢献する。
データアナリティクスにおいては、さまざまなデータ形式で存在している大量の診療データや健診情報に加えて、日常生活のライフログを分析するための新たなデータ基盤の整備を推進する。さらに、集約したデータを分析可能なデータに構造化して解析するような、新たな手法の開発にも着手するとしている。ここで整備したデータ基盤は製薬会社や保険会社などヘルスケア関連企業の活用を促すことで、さらなる医療サービスや製品の創出にもつなげたい考え。
これら3つの施策に加えて、両者は積極的に人材交流や研究開発施設の相互利用を進め、新たな医療サービスの共同開発や、技術の社会実装も目指す。特に、東北大学病院のASUを活用し、デザイン思考を取り入れた新たな医療サービスの開発を推進する。これにより、従来の技術や性能の向上を中心としたものづくりからの脱却を図り、多様化した個人の価値観を起点とした人間中心の体験構築を目指すようだ。
同時に、医療知識とデジタル技術のスキルを兼ね備えた、次世代のデータサイエンティストやAIエンジニアなど、高いスキルを有する人材の育成にも取り組む。
富士通の執行役員 堤浩幸氏は「富士通と東北大学はヘルスケア領域から今回の提携を開始する。次のステップでは地域へとこの取り組みを広げていく予定だ。2030年にはさらに世界へと拡大させていきたい。ウェルビーイング社会を実現していくのでご期待いただきたい」と強く述べていた。