米国商務省のジーナ・レモンド長官と韓国の産業通商資源部(日本の経済産業省に相当、以下、産業部)の李昌洋(イ・チャンヤン)長官は9月21日、ワシントンD.C.にて会談し、5月の米韓首脳会議で決まった「米韓サプライチェーンおよび商業対話(U.S.-South Korea Supply Chain and Commercial Dialogue:SCCD)」の設立をさらに発展させ、二重用途(民生と軍事の両方の用途に利用可能な物品やソフトウェアや技術)の輸出管理などに関する協議を目的に、2022年末までに高度な製造サプライチェーンに関する新しいSCCDワーキンググループを立ち上げることで合意したと発表した。米韓間の半導体をはじめとするサプライチェーンに関する諸問題についても率直な意見交換を行ったという。

  • 米国商務省のレモンド長官と韓国通商産業思弁部の李昌洋長官

    米国商務省のレモンド長官(右)と韓国通商産業思弁部の李昌洋長官(左) (出所:韓国通商産業資源部フォトニュース)

商務省はガードレール条項具体化の際には韓国政府と協議約束

韓国側の発表によれば、半導体、バッテリー、原子力発電など両国間で協力事案が多い状況で米国インフレ抑制法(IRA)のような差別的措置は協力関係を弱めるだけに、早急に解決することが必要であるとの韓国側の問題提起に関して、レモンド長官は、「協議を続けて米韓両国間サプライチェーン協力をより拡大していく」と述べたという。韓国側は「半導体および科学法(CHIPS and Science Act of 2022:CHIPS法)」のガードレール条項(米国政府から補助金を受領した半導体企業はその日から10年間にわたり中国の先端半導体事業に投資し工場の新増設を禁ずるという条項)の適用により、両国の半導体企業のビジネスが萎縮してはならないとし、同法を担当する米商務省が ガードレール条項を具体化する過程で韓国政府と事前に緊密に協議することで両国は合意したという。

ガードレース条項の適用は韓国企業にとって死活問題に

Samsung Electronicsは、中国西安に先端の3D NANDフラッシュメモリ量産工場を有しており、同社のNAND製品総生産額の4割以上を占めている。SK Hynixも中国無錫に先端DRAMの量産工場を有している。

しかも、両社にとって中国は全売上高の半数を占める最大市場でもあることもあり、CHIPS法のガードレール条項により中国での先端メモリ量産工場の新増設ができなくなることは死活問題になる可能性が高い。そのため、韓国政府は、CHIPS法のガードレール条項を厳格には運用せぬように米国側に要望したとみられる。

このガードレール条項は、韓国企業だけではなく、中国に半導体工場(主に後工程)を持つ米国企業にも適用されることから、米国企業にとっても他人事ではない。米国半導体および製造装置業界は自由貿易を阻害する規制に反対するロビー活動を展開してきており、米商務省もさまざまな対中貿易規制についてかなり恣意的にゆるく運用してきた経緯がある。多くの米国半導体企業や装置メーカーにとって中国は韓国企業同様に、売上高が一番大きな市場であり、米商務省も米国産業を振興するという役割もあるため、厳しい対中規制適用で国内企業の業績を悪化させ衰退させるわけにもいかぬ事情も踏まえたレモンド長官の手腕が注目される。