名古屋大学(名大)は9月21日、ラットを用いた動物実験において、脳内において“幸福ホルモン”や“愛情ホルモン”と呼ばれる「オキシトシン」(OXT)が交感神経系を活性化し、脂肪組織において熱の産生を増加させる神経路を発見したと発表した。

同成果は、名大大学院医学系研究科統合生理学分野の福島章紘助教、同・片岡直也特任講師(名大高等研究院兼務)、同・中村和弘教授らの研究チームによるもの。詳細は、ライフサイエンス全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Cell Reports」に掲載された。

オキシトシンは、出産や授乳、養育行動、社会的行動(他個体との関わり合い)を促す機能に加え、自律神経機能に対する影響も持つことが知られている。たとえば、オキシトシンが機能できない遺伝子改変マウスでは、褐色脂肪組織での熱産生量が低下して体温調節がうまくできず、肥満になりやすいと言われている。そうした研究結果から、オキシトシンが交感神経を制御する脳内の神経回路に作用し、その調節に影響を与える可能性が考えられてきたが、その作用に関わる脳領域やメカニズムの詳細はまだわかっていないという。

そこで研究チームは今回、ラット脳内におけるOXT産生神経細胞である「OXTニューロン」の機能を調べることを目的に、同細胞だけに「細胞膜移行型緑色蛍光タンパク質」(palGFP)を発現させるアデノ随伴ウイルスベクターを開発し、実験することにしたという。

palGFPは細胞の膜構造を標識できるため、標識されたニューロンの軸索を末端まで明瞭に可視化することが可能になるため、「視床下部室傍核」のOXTニューロンが軸索を伸ばす先の中枢神経領域の探索が行われたところ、延髄の一部である「吻側(ふんそく)延髄縫線核領域」(rMR)に、その軸索の終末が分布していることが確認されたほか、共焦点顕微鏡を用いた微細構造解析が行われたところ、OXTニューロンの軸索がrMRの「交感神経プレモーターニューロン」と密に近接した構造を作っており、シナプスを形成している可能性が高いことも示されたという。この交感神経プレモーターニューロンは、褐色脂肪熱産生や心機能を調節する交感神経を活性化する信号をrMRから脊髄へ送るニューロン群のことだという。