岐阜県恵那市(以下、恵那市)、日本ガイシ、リコー、IHIは9月20日、恵那電力の再生可能エネルギー(再エネ)による発電および売電事業を通じて恵那市が得た環境価値を経済的に有償な価値(クレジット)に変換し利用する、脱炭素・経済循環システムの実証事業を10月から開始すると発表して記者会見を開いた。
創出したクレジットは恵那市内で活用するほか、土産品やふるさと納税の返礼品の創出に利用するなど、市外からの資金還流を生み出す仕組みにも利用される。4者は地域経済の活性化や再エネの導入拡大、恵那市のゼロカーボンシティ実現に貢献するとしている。
恵那電力は日本ガイシ、恵那市、中部電力ミライズによって2021年4月に設立された地域新電力会社だ。市内の土地や建物屋上などを利用した地産電力の調達に取り組むなど、地域に根差した電力会社である。2022年4月から電力供給を開始し、公共施設62カ所や明知ガイシ工場などへ電気を販売する。
恵那電力は太陽光発電設備と電力貯蔵用NAS電池を保有し、FIT制度(固定価格買取制度)を利用しない再生可能エネルギーの活用と経営安定性、自然災害への対応力強化などを特徴とする「恵那モデル」を掲げ、ゼロカーボンシティの実現を進める。発電設備を設置するために新たに土地を切り開くのではなく、すでにある土地や施設を有効活用する方針だという。
日本ガイシとリコーは、2022年4月から恵那電力における再エネの発電から消費、余剰発電の電力貯蔵用NAS電池への充放電も含めた全プロセスのトラッキングを、ブロックチェーン技術により行う実証事業に取り組んでいる。恵那市の公共施設で発電されて自家消費された再エネ電力の消費は、二酸化炭素削減量として市が保有する環境価値として扱われる。
今回の実証事業では、こうした環境価値をIHIが開発した環境価値管理プラットフォームによりJ-クレジット制度を通してクレジット化する。また、クレジット化された市保有の環境価値を市内の事業者や生産者に売却することで、環境価値が付加されたカーボンオフセット商品の創出を促進して、恵那市の環境ブランド力向上に寄与する。
4者はさらに、将来的には同事業を通じて得た市外からの資金還流を原資として、さらなる再エネ導入や省エネ化の促進につなげ、環境価値を最大限に活用した、環境と経済の好循環スキームの確立も進める。
実証実験においては、恵那電力が発電した電力に対してリコーとIHIのデジタル技術やIoT(Internet of Things)機器を利用して、クレジット化までの手続きを効率化する。この事業を通じて、恵那市のゼロカーボンシティ実現を進め、4者は全国の自治体のモデルケースとなる脱炭素・経済循環システムの確立と、2050年までのカーボンニュートラルの実現を目指すとのことだ。
恵那市の水道環境部長である柘植克久氏は「行政は最大のサービス業と言われることもあるように、自治体の業務は金銭的な価値に置き換えにくいものだ。今回実証に参加する各社が保有する先端技術で脱炭素化の価値を可視化し、ひいては新しい価値の想像などにもつなげられたら」と期待を見せていた。