The Genotype to Phenotype Japan(G2P-Japan)コンソーシアムは9月15日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の懸念される変異株の1つ「オミクロンBA.5株」のウイルス学的特徴を、流行動態、免疫抵抗性、および実験動物への病原性などの観点から明らかにしたことを、G2P-Japanのメンバーの研究者が所属する東京大学(東大)、北海道大学(北大)、宮崎大学、熊本大学、HiLungを通じて発表した。
同成果は、東京大学医科学研究所システムウイルス学分野の佐藤佳教授が主宰する研究コンソーシアムG2P-Japanによるもの。詳細は、細胞生物学やウイルス学などの関連する幅広い分野を扱う学術誌「Cell」に掲載された。
世界全体で、9月第2週はSARS-CoV-2による死者数が2020年3月以来の最低数を記録し、WHOのテドロス事務局長も「終わりが視野に入ってきた」と発言するなど、落ち着きつつある。しかし、日本では第7波のピークは過ぎ、新規感染者数が減ってきてはいるものの、それでも9月9日から15日までの1週間平均で全国8万5000人以上を記録しており、高止まりといえる状況が続いている。しかも、SARS-CoV-2はさまざまな特性を新たに獲得した「変異株」が定期的に出現することを特徴としており、予断を許さない状況となっている。
その変異株のうち、2021年末に南アフリカで出現した「オミクロンBA.1株」は、同年11月26日に命名されて以降、またたく間に全世界に伝播した後、2022年1月から世界各国で、オミクロン株の派生株である「オミクロンBA.2株」が検出され、日本を含めた世界の多数の国々に広がった。現在、BA.2株の亜株の1つであるBA.5株への置き換わりが世界中で急速に進んでいる状況だという。
今回の研究では、BA.5株のウイルス学的特徴を明らかにするために、世界各国のウイルスゲノム取得情報を基に、ヒト集団内におけるオミクロン株の実効再生産数の推定を実施。その結果、BA.5株のヒト集団での増殖速度は、BA.2株に比べて1.4倍高いことが判明したという。
また、BA.5株は、BA.2株やBA.2.9.1株、BA.2.11株、BA.2.12.1株と比べると、感染や3回のワクチンによって誘導される中和抗体に抵抗性を示すこともわかったとするほか、BA.1株やBA.2株感染者、BA.2株やBA.5株免疫動物の検体を用いた解析から、BA.1株やBA.2株単独によって誘導される抗体は、BA.5株への中和活性が低下していることも判明したとする。さらに、BA.5株単独によって誘導される抗体は、BA.1株やBA.2株への中和活性が低下していること、つまり、BA.1株とBA.2株、そしてBA.5株はそれぞれ抗原性が異なることが確認されたとすることに加え、培養細胞を用いた感染実験から、BA.5株は、BA.2株よりも、合胞体形成活性が高いことも見出されたとする。
加えて、ヒトiPS細胞由来肺細胞を用いた感染実験結果から、BA.5株は、BA.2株よりも肺細胞における増殖効率が高いことが確認されたとするほか、ハムスターを用いた感染実験から、BA.5株スパイク(S)タンパク質を持つウイルスは、BA.2株のSタンパク質を持つウイルスに比べ、体重減少が有意に大きく、また呼吸機能の異常を示す検査数値が有意に高いことが突き止められたという。
研究チームでは、今回の研究からBA.5株は、BA.2株よりも病原性が高いことが確認されたとするほか、BA.2株とBA.5株では抗原性が異なること、BA.5株のヒト集団での実効再生産数は、BA.2株に比べて1.4倍高いことが示されたことから、BA.5株による新規感染者数が高止まりしている現在、ピークを過ぎたとはいえ、医療逼迫が続いている状況であり、これを回避するために有効な感染対策を講じることが肝要だとしている。
なおG2P-Japanでは、出現が続くさまざまな変異株について、ウイルス学的な正常解析や、中和抗体や治療薬への感受性の評価、病原性についての研究に取り組んでいるとしており、今後もSARS-CoV-2の変異の早期捕捉と、その変異がヒトの免疫やウイルスの病原性・複製に与える影響を明らかにするための研究を推進していくとしている。