関西学院大学(関学)、豊田通商、山梨技術工房の3者は9月9日、パワー半導体材料であるSiCウェハの製造プロセスにおいて生じる結晶の歪み(加工歪み層)を検査する技術を開発したことを発表した。

同成果は、関学 工学部の金子忠昭教授、豊田通商、山梨技術工房の共同研究チームによるもの。詳細は、スイスにおいて現地時間9月11日から16日まで開催されるSiCおよび関連材料に関する国際会議「ICSCRM2022」において発表ならびにブース展示が行われる予定だという。

現在のパワー半導体の主流であるSiと比べてSiCは電力ロスを低減できることが特徴で、鉄道、産業機器、電力などに加え、特に電気自動車などの電動車において採用拡大が期待されている。

SiCウェハは硬くて脆い材質のため、製造時の課題として、スライスや研削・研磨の際、表面近傍で結晶が破壊され、加工歪み層が生じてしまい、それがウェハの良品率低下やパワー半導体の不具合の原因となることが知られているものの、ウェハ全面を可視化する技術が存在しないため、ウェハ量産加工プロセスの品質管理や受入検査にも適用可能な「高速・高精度加工歪み検査技術」が強く望まれていたという。

そうした中、関学と豊田通商は2017年から共同で、高品質SiCウェハの量産プロセス技術開発に関する研究を進めてきており、山梨技術工房の持つレーザー散乱光応用技術に着目することにしたという。そして今回、三者共同でSiCウェハの機械加工由来の歪み層を全面にわたり可視化し、ウェハの歪み層を相対的に比較する技術を開発することに成功したとする。

  • SiCウェハ製造プロセス概要

    SiCウェハ製造プロセス概要。(1)SiCバルク結晶を成長させインゴットに成形。(2)インゴットをスライスし、SiCウェハの素地を作製。(3)スライスされたSiCウェハ素地を研削・研磨、(4)CMP(Chemical Mechanical Polish:化学機械研磨)で鏡面加工し、SiCウェハが完成。(5)SiCウェハ上に高品位な結晶薄膜を形成(CVDエピタキシャル成長) (出所:関学Webサイト)

同検査技術は、レーザー光をウェハ表面に照射し、表面および内部からの散乱光を最適な角度で検出することで、加工歪み層を可視化することができるというもので、ウェハ全面を高速で検査することができ、量産加工プロセスの品質管理などへも適用が可能だという。

  • ウェハ加工歪み検査技術の概要

    ウェハ加工歪み検査技術の概要 (出所:関学Webサイト)

なお、同検査技術を通じて確認された加工歪み層は、関学と豊田通商が2021年3月に公表した、熱エッチングと結晶成長を統合した非接触型のナノ制御プロセス技術「DynamicAGE-ing」により、完全に除去することが可能だとのことで、研究チームでは今後、同技術を実装したウェハ検査装置の製品化の早期実現を目指していくとしている。