世界的な社会情勢の変化で増加する高効率パワー半導体ニーズ
世界的な気候変動に対する意識の高まりは、さまざまな社会の変化を生み出している。例えば自動車は、ガソリン車の新車販売を停止し、すべてゼロエミッション車とする規制を打ち出す国が出てきている。
そうした背景から、自動車分野では電気/電子(E/E)化、いわゆるエレクトロニクス化が進む一方、搭載できるバッテリー容量には限界があり、かつバッテリー技術の現状からのさらなる向上はなかなか難しいこともあり、いかに電力を効率よく消費するかがポイントとなっている。そうした中、電気自動車(BEV)を中心に、SiCパワー半導体に対する期待感が高まっている。また、スマートフォン(スマホ)やUSB PD対応PCを中心とした急速充電ニーズも高まりを見せており、GaNパワー半導体の需要が拡大している。
こうしたSiCやGaNはいわゆるワイドバンドギャップ(WBG)半導体と呼ばれ、従来のSiパワー半導体以上に高い電力効率を実現する半導体素子として期待されている。GaNとSiCの製品の線引きはおおむね、耐圧600V以上がSiC、600V以下がGaNとされており、多くのパワー半導体を扱うサプライヤが現在、世界各地で誕生し、性能競争を繰り広げている。しかし、現状、そうしたWBG半導体市場でシェアを獲得しているのは長年にわたってパワー半導体を手掛けてきた老舗とも言える半導体メーカーたちである。例えばSiCパワー半導体については、Infineon Technologies、Cree/Wolfspeed、ローム、STマイクロエレクトロニクス、onsemiといったところが良く知られている。
今回、こうした先頭を走る大手半導体メーカーの中でもトップクラスのシェアを有するInfineonにおいてSiCバイスプレジデントを担当するピーター・フレドリッヒ(Peter Friedrichs)氏に同社のWBGパワー半導体戦略に関する話を聞く機会といただいた。
WBGはSiパワー半導体を補間する存在
現在、SiCパワー半導体は、その高い電力効率のみならず、高温に強いといった特性なども含めシステムとして見た場合のTCO(Total Cost of Ownership)を下げられる点などから、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギー分野、送電分野を中心に市場を拡大してきた。そこに、世界的なEV化の波が押し寄せてきており、幅広い分野でSiCに対するニーズが高まっているという(日本では鉄道への搭載も増加している)。また、GaNについても上述の急速充電器のほか、データセンターの電源ニーズなど、新たなアプリケーションの登場により市場が伸びているとする。
こうしたWBG市場の伸びに対し、同氏は決して「必ずしもSiベースのパワー半導体を置き換えるものではない。むしろ、それぞれの技術セグメントにおいてSiパワー半導体を補間する形でWBG製品が新たなアプリケーションに向けて投入されている」と、Siパワー半導体あってのWBGパワー半導体だとする。
長年にわたって培ってきたSiパワー半導体とそれを活用するためのモジュール技術を背景に、さまざまなシステムにおけるニーズやポイントを理解して、そこにマッチするSiCやGaNパワー半導体を市場に投入する。こうした戦略もあり、同社のSiCパワー半導体におけるデザインウィンは、2017年は全体の87%が太陽光発電システムにおけるDC電力をAC電力に変換するストリングインバーター向けであったが、これが2021年にはデザインウィンの数そのものが5倍に増加。内訳としても、ストリングインバーターは全体の29%まで縮小し、それ以外にもEVの充電器やUPS(無停電電源装置)、輸送機器、 公益的なエネルギー貯蔵システム(Utility Energy Storage Systems)など、幅広い分野での活用が進んでいるという。
このため、カスタマ数も増加。大手からスタートアップまで事業者規模に関係なく、また自動車、設備、電源、太陽光発電など、その業種もさまざまで、その数は実に3000社以上におよぶという。
同氏も「この数年間、SiC関連の売り上げは右肩上がりで伸びており、特に2020年比で2021年は2倍に、2022年も前年比で2倍近くの売り上げの伸びを見込んでいる」と、その引き合いの高さを強調する。中でも「InfineonはSiC製品を最初に市場に提供した企業の1社であり、その生産実績は20年以上にわたる。当然、さまざまなノウハウを有している。トレンチMOSFET技術は市場におけるベスト・イン・クラスというカスタマからの評価を受けていると自負しているし、産業分野におけるSiCビジネスでトップを獲得していることがその裏付けとなる。Siパワー半導体にも精通しており、SiからSiCへと移行したいカスタマのサポートも可能な点も評価されている」と、自社の技術力の高さが武器になっているとする。