国立天文台(NAOJ)は9月9日、天の川銀河の中心付近に存在する棒状構造の形成が引き起こした変動の歴史について、NAOJの天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイII」を用いたシミュレーションを行った結果、棒状構造が形成後間もなく、ガスが銀河の中心領域に流れ込み、そこで爆発的な星形成が起こり、新たに「中心核バルジ」が形成される一方、棒状構造ではガスが枯渇し星形成が急停止するということが明らかになったと発表した。
同成果は、NAOJ JASMINEプロジェクトの馬場淳一特任助教を中心とした国際共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立天文学会が刊行する天文学術誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」に掲載された。
天の川銀河の内側にいる地球からは、その外観を直接見ることは不可能ながら、さまざまな観測データから、渦巻き腕を持った円盤型をしていること、また円盤の中央付近には星が細長く分布する「棒状構造」があることなどがわかっている。同構造はその重力の影響により、天の川銀河の広域において星やガスの移動を支配しているとされる。
近年の大規模地上サーベイ観測や、欧州宇宙機関(ESA)の位置天文観測衛星「Gaia」の革新的高精度データにより、現在の棒状構造の大きさや回転速度が明らかになりつつある。しかし、棒状構造がいつ形成され、どのような変動を経て進化してきたのかは不明のままとなっている。これは棒状構造の形成進化の歴史が、どのような観測情報にどのように刻まれるのかがわかっていないためだという。
そこで研究チームは今回、棒状構造の形成時期を観測的に明らかにするため、アテルイIIと、「ASURAコード」を用いて、天の川銀河における3次元の重力多体・流体シミュレーションを行い、棒状構造の形成進化が星形成活動や星の年齢分布にどのような影響を与えるのかを調べることにしたという。ASURAは神戸大学の斎藤貴之准教授によって開発された、重力多体系と流体系の自己無撞着な重力相互作用と、星形成過程・超新星爆発加熱などの銀河進化素過程を考慮した数値シミュレーションを行える、並列N体/SPH法のシミュレーションコードであるという。