東京工業大学(東工大)は9月7日、水質変成を経験した炭素質コンドライト隕石中のアミノ酸存在度が非常に低いという謎を説明できる化学プロセスを発見したと発表した。
同成果は、東工大 地球生命研究所(ELSI)のYamei Li特任助教、関根康人所長(主任研究者/教授)、同・黒川宏之特任准教授、同・中野祐子氏、米・レンセラー工科大学のクリスティン・ジョンソン=フィン氏(研究当時・ELSI研究員)、海洋研究開発機構 超先鋭研究開発部門 超先鋭研究開発プログラムの北台紀夫副主任研究員らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
C型小惑星を母天体とすると考えられている炭素質コンドライト隕石は、太陽系においても最も始原的な物質の1つであり、アミノ酸などのさまざまな有機物(炭素)を普遍的に含んでいる。こうした隕石によって有機物が地球にもたらされ、生命が誕生する際の重要な材料物質となったと考えられている。
またアミノ酸の化学的多様性は、炭素質コンドライト隕石の母天体である小惑星が集積する前後における化学進化を記録しているという点でも重要とされている。しかしこれまでのところ、母天体上の化学反応に関する実験結果と隕石記録との間には、大きな食い違いが生じていた。
これまでの研究から、始原的な分子を含む水溶液中でアミノ酸が合成されうることがわかっており、長期の水質変成によってアミノ酸が蓄積された可能性が示唆されていた。しかし、実際にはより水質変成を経験した炭素質コンドライトほどアミノ酸が枯渇しているという、「水のパラドックス」が指摘されている。
そうした中で研究チームは今回、この水のパラドックスを解決する新しい低温宇宙電気化学プロセスを発見。水と岩石の相互作用によって作り出される酸化還元度勾配によって駆動される、水質変成度の新しい分子指標を提案することにしたという。