難治性の自己免疫疾患「全身性エリテマトーデス(SLE)」の発症と悪化では、それぞれ異なる免疫細胞が異なる仕組みで作用していることを突き止めた。理化学研究所と東京大学の研究グループが発表した。さまざまな症状の患者に対し、免疫細胞ごとに遺伝子発現を詳しく調べ、異常を多数特定して見いだした。この疾患の解明や治療法の開拓につながることが期待される。

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    研究の概要。SLE患者の免疫細胞ごとに遺伝子発現を詳しく調べ、発症と悪化で異なる仕組みがあることを突き止めた(理化学研究所提供)

SLEは免疫の仕組みが自己の細胞や臓器を攻撃する疾患。発症すると寛解と悪化を繰り返し、治癒が難しい。多くの遺伝子が関係する上に、血液のさまざまな免疫細胞が複雑に関わり、症状が起きる臓器や勢いが患者ごとに大きく異なることなどから、病態の解明が進まず、効果的な治療薬が少ない。

過去の遺伝子研究では対象患者が少なく、症状ごとの遺伝子発現の違いがよく分からなかった。血液中の免疫細胞をまとめて調べており、どの免疫細胞でどんな遺伝子発現の異常が起きているのかも、はっきりしなかったという。

そこで研究グループは、遺伝子発現量を過去最大規模で網羅的に調べ、病態の詳しい解明を目指した。さまざまな症状の患者136人と比較対照のための健常者89人の血液から、27種類、計6386サンプルの免疫細胞を取り出して調べた。

解析を通じ、まず発現する遺伝子群のタイプに(1)寛解状態の患者と健常者の間で発現量が有意に異なる、つまり発症に関わる遺伝子群、(2)悪化している患者と寛解状態の患者の間で発現量が異なる、つまり悪化に関わる遺伝子群--の2通りがあることを見いだした。

27種類の免疫細胞で(1)と(2)の両方のタイプを調べた結果、発現量に差のある遺伝子を細胞1種類あたり平均約2000ずつ見つけた。2つのタイプを比べると、多くの細胞で、発現する遺伝子の顔ぶれがかなり違っていた。このことから、発症と悪化とで異なる仕組みが働いているとみられることを発見した。症状が起こる臓器が違うと、活性化する免疫細胞が異なることも示した。

さらに、既存の治療薬の働きを調べた。治療薬が抑える遺伝子群と、(2)の悪化に関わる遺伝子群とが、効き目があった患者では特によく一致。つまり治療薬が悪化に関わる遺伝子群を抑えることで、効能を持っていることが分かった。

これまでの大規模な「ゲノムワイド関連解析(GWAS)」と呼ばれる解析手法では、SLEの悪化に関わる遺伝子群をよく捉えられていなかったことも示した。

研究グループの理研生命医科学研究センターの中野正博特別研究員(免疫学、遺伝学)は会見で「発症と悪化では異なる病態メカニズムがあることが分かった。この成果を基に、新たな治療法の開発が期待できる。今回は主に異なる患者を比較したが、今後は同じ患者の遺伝子発現の推移を追い、予後や再燃の予測を目指す必要がある」と述べた。

成果は米生命科学誌「セル」電子版に8月23日に掲載された。

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